UNZIP

『ワレサ 連帯の男』Wałęsa. Człowiek z nadziei

『大理石の男』『鉄の男』から30年…巨匠アンジェイ・ワイダが再び放つメッセージ

レフ・ワレサ ―。1970年、ポーランド、グダンスク・レーニン造船所の一介の電気工だった彼は、政府による食料品の値上げ対する抗議暴動のなか、軍による鎮圧で多数の死者が出ることとなった悲劇を目撃。やがて労働者のためのストライキ委員会の一員になり、1980年には委員長に就任。多くの仲間たちを指導し、ポーランド民主化運動の歴史的な第一歩となるグダンスク合意を勝ち取る。そして、独立自主管理労組「連帯」の委員長へ。当時のポーランドの人口の1/4弱の労働者が加盟していた言われる「連帯」の委員長として闘い続け、政府の戒厳令により約1年間の拘束を経た、1983年にノーベル平和賞受賞。1989年には、ポーランド初の部分的自由選挙で「連帯」を勝利に導き、1990年から5年間、大統領に就任した。一介の造船所の電気工の男が、戦後ポーランドの大きな転換期に、政治を、そして国を変える男になった―。

同時代を生きた人々にとっては、歴史を変えた伝説的な人物として知る人もいる多いだろうが、例えば、ポーランドから遠く離れた日本で暮らす若い世代にとっては、この出来事やワレサという人物を詳しく知る人は決して多くないだろう。だからと言って、この作品は観客を限定しているわけではない。

どのようにして、普通の労働者だった一人の男が、指導者へなり、社会を変えるために、そして自由のために闘ってきたか…。アンジェイ・ワイダは、力強く、そして軽快さをも伴った手際でこの物語を描く。そこには、80歳を越えた映画監督だとは思えないエネルギーをスクリーンからひしひしと感じさせる(本作とは違った手法で生み出した、映画の新たな地平を切り開くような前作『菖蒲』を目にしたときにも感じさせられた。ワイダの創造力は全く衰えることがないようだ)。80年代のロックミュージックを全編にわたって鳴らし、激動する当時の雰囲気を醸し出し、35ミリと16ミリカメラを使い分けて撮影した映像によって、当時の記録映像とこの作品のために撮影された映像を見事に融合させる。さらに同じテーマで描かれた30年前の自身の作品『鉄の男』からの映像も引用し、過去の作品とのつながりも示す。作中で描かれる歴史の転換を重々しいタッチで歴史映画のようにではなく、また、レフ・ワレサという男を大仰に描くのではなく、ユーモアも取り入れつつ、妻や家族を愛するどこにでもいるような人物として描く。忘れてはならないのは、ワレサが、同僚や同じ社会に住む人々を思いやる気持ち。そして、なによりも強い、妻や家族への絆だ。

もし観客が戦後ポーランドの歴史やレフ・ワレサという人物に深い知識がなくても、これによって、映画に込められたメッセージを感じることができるのではないだろうか。歴史の教科書を見るような距離感ではなく、私たちと同じ“普通”の人物であったワレサという男が、彼と同じ“普通”の人々とともに、社会を変えるために、自由を掴むために闘ったその足跡を、肌身に彼らの思いを感じさせてくれるような距離感でスクリーンに映し出している。ライフワークとしてポーランドの歴史を描くことで、歴史を風化させないというワイダの思いとともに、次の世代への配慮も伺える。映画を観て、彼らはワレサや彼らの歴史を知るだろう。

そして、自由や権利のためには、社会や政治に目を向け、そこに参加し、ときには手を取り合い、闘わなければならない。『ワレサ 連帯の男』は、そうメッセージを伝える。今、ここ日本でも、そのメッセージは、非常に重く、力強く、多くの観客に届くのではないだろうか。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

4月5日(土)より岩波ホールほか、全国順次ロードショー

監督:アンジェイ・ワイダ 
脚本:ヤヌシュ・グウォヴァツキ
キャスト:ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ、アグニェシュカ・グロホフスカ ほか

2013年/ポーランド映画/ポーランド語・イタリア語/シネマスコープ/デジタル5.1ch/127分/字幕翻訳:久山宏一、吉川美奈子

提供:ニューセレクト/NHKエンタープライズ 
配給:アルバトロス・フィルム

TRAILER