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『チャップリンからの贈りもの』THE PRINCE OF FAME

チャップリンの遺体を盗んで身代金を要求!?そんな彼らへに届いた贈りものとは?

1977年12月25日、大なる喜劇王チャップリンの死に世界中が涙した。しかし、その2ヶ月後、スイス・レマン湖畔の彼のお墓が掘り起こされ、彼の遺体が棺ごと盗まれる事件が起こる。世界に衝撃を与えた、本当にあったこの<チャップリン遺体誘拐事件>は、その衝撃とは裏腹にあっけなく犯人逮捕に至る。

『チャップリンからの贈りもの』は、この実話をもとにした物語。

とは言っても、本作は、一般的に想像されるような“犯罪映画”ではない。むしろ、ここにあるのは“喜劇”だ。そう、チャップリンが数々生み出しては、多くの人たちの心をあたたかく灯してきた喜劇。

貧しさから抜け出すために誘拐事件を実行する、刑務所から出所したばかりのお調子者のエディと真面目なオスマンのコンビ。ふたりはどこか抜けていたり、親友のはずなのに口論ばかりで、いろいろ上手くいかない。ふたりが口論を繰り広げるシーンでは、言葉は消え、音楽のみが流れるサイレント映画のような演出になったり、『モダン・タイムス』や『サーカス』といったチャップリンの名作からのオマージュも散りばめられている(※DVD『ライムライト』のジャケットと本ページの場面写真の3枚目を参照してみてください)。しかも、遺族の全面的な協力を得て、チャップリンが晩年を過ごした邸宅や墓地でのロケ、物語中のチャップリンの妻役は実の孫娘、町のサーカスの団長には実の息子が演じている。加えて、全編を彩るのは『ライムライト』のテーマ曲をアレンジした巨匠ミシェル・ルグランの音楽。権力に対する風刺や道化師とサーカス、家族への愛、淡い恋慕などなど。

物語のいたるところでチャップリンへのオマージュを感じることができる。それはオマージュでもあり、チャップリンの残してくれたものだ。そして、本作が「チャップリンからの贈りもの」という名である所以は、ラストにあるのかもしれない。

チャップリンとその家族から金を奪おうとしたエディとオスマンは、その愚かな行いがゆえに、自分たちの未来を失いかける。しかし、そのとき彼らは、逆にチャップリンから未来を与えられることになる。私たちが、チャップリンの映画を観て、笑い、涙して、そして未来への希望を与えてもらうように。チャップリンの多くの作品には弱き者への深く優しいまなざしに満ちていた。チャップリンの喜劇は、苦しかったり、辛かったり、もしくは悲しい状況を笑うという行為に変えてくれる。それは未来への希望を持つことに似ている。それはチャップリンからの贈りものだ。

本作は、チャップリンが残してくれた“贈りもの”の大切さを感じさせてくれる。


Reviewer : yuki takeuchi

ABOUT THIS FILM

7月18日(土)YEBISU GARDEN CINEMA 他全国順次公開

監督:グザヴィエ・ボーヴォワ
脚本:グザヴィエ・ボーヴォワ、エリエンヌ・コワール
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:ブノワ・ボールヴールド、ロシュディ・ゼム、セリ・グマッシュ、ドロレス、チャップリン、ユージーン・チャップリン

原題:THE PRINCE OF FAME / フランス映画 / シネスコ / 115分 / カラー / 5.1ch

TRAILER