『ローリング』
鬼才・冨永昌敬が描く、最低男の最高のローリングストーンムービー!
一方で、自ら仕事を獲得するために力強く生きる『サンドラの週末』がありながら、もう一方では、ダメな元教師の転落人生を描いた本作『ローリング』がある…。相反する二つの価値観、もしくは生き方。そのどちらもあるから、人というのは面白いのかもしれない。どちらに優劣があるということではなくて、真面目に生きようとすることも、ダメに生きてしまうことも、どちらも同じ人なのだ(もちろん人様にご迷惑をおかけすることはいけませんが)。例えば、真面目に毎日仕事をしていても、その反面、ときおり、どうでもよくなってしまうこともあるかもしれない。だからと言って、その一瞬の気分に従って、何もかもを投げ出すような行いをすることもできない。すこし頭の中で妄想を膨らますのが関の山。大半がそうだろう。真面目な生き方に憧れながらも、ダメな方にも興味をひかれてしまう。だから、『ローリング』の主人公である、盗撮によってダメな人生を送ることになる元教師が、教え子に女も奪われ、どうやって人生を転げ落ちていったのか…、しかも冒頭で「これが現在の私」と言って鳥の巣が映し出されるのだから、え?転落人生の末に鳥の巣?という疑問とどうなっていくのだろうという期待感を抱えながら、ついつい引き込まれてしまうのだ。少し下世話な好奇心とうしろめたさと少しの羨ましいさを綯い交ぜにしつつ。
10年前に学校内で起こした盗撮事件後に姿をくらましていた元教師の権藤は、地元へ戻ってくる。しかし、元教え子たちに見つかり、過去を糾弾され、逃げていたところ、元教え子の貫一に出会う。貫一は、権藤を匿ってあげながらも、権藤が連れていたキャバクラ嬢みはりに一目惚れ。後日、やすやすと権藤から女を奪ってしまう。川瀬陽太演じる権藤の女の気を引いてしまうダメさ加減、最低な男っぷり。柳英里紗のみはりの男の気を引いてしまう色気と浮遊感。三浦貴大が演じる貫一の恩師を思いやる真面目さとその裏にあるどこか狡猾そうな雰囲気。物語の軸になる、この三者の絶妙なバランス・関係性が良い。一方で、過去に権藤が盗撮した動画に、今や芸能界で活躍する人物が映っていたことを発見した貫一の悪友たちは、貫一と権藤を巻き込んで悪巧みを仕掛け、物語はさらに「転回」していく。
最近では『パンドラの匣』や『乱暴と待機』など原作もののメジャーな作品が続いていた冨永監督の久々のオリジナル作。監督らしい独特なテンポ、ユーモア、力の抜けたような雰囲気に隠れた不穏な空気、エッヂの効いた映像や展開が存分に発揮されている。ダメな元教師の転落人生とその教え子たちの予期せぬ騒動は、次第にゴタゴタしていくのに、どこかオフビートでゆるゆると脱力していく。その反面、常に不穏な、緊張感のある雰囲気を漂わせる音楽、秀逸な映像センスが、絶妙なバランスで観るものを引き込む。監督の盟友でもある渡邊琢磨(COMBO PIAN,sigh boatなど)による音楽も素晴らしいく、最後の最後では、なんとも言いようのない、清々しさすら感じさせるのだが、最低男の転落人生の“最後”にこんな不思議な気持ちにさせるなんて!人間て哀しくて面白い。
Reviewer : yuki takeuchi
ABOUT THIS FILM
6月13日(土)より新宿 K's cinema ほか全国順次公開!監督・脚本:冨永昌敬
出演:三浦貴大、柳英里紗、川瀬陽太、松浦祐也、礒部泰宏、橋野純平、森レイ子、井端珠里、杉山ひこひこ、西桐玉樹、深谷由梨香、星野かよ、高川裕也
(2015 年/DCP/93 分/カラー)