まず、最初にこの映画はけっして「マンチェスター」をテーマにした映画でもなければ、ましてや「ハッピーマンデーズ」や「ジョイ・ディヴィジョン」の貴重な映像をみることができるといった音楽映画でもない。『トレインスポッティング』のようにファッションだけでとびついたりする人たちがもしこの映画を見ると少しがっかりするに違いないだろう。これはあくまでも、ある一人の人物の伝記をベースにした「映画」である。舞台はマンチェスター。時代は78年から92年。主人公の名前はトニー・ウイルソン。ファクトリーレコードの創立者であり、地元のテレビ局の司会者であった人物の話である。(彼はいまではそのテレビ局の社長らしい)。
TONY WILSON (STEVE COOGAN)
『24HOUR PARTY PEOPLE』
ドキュメンタリースタイルでこの映画は展開される。トニー・ウイルソン役のスティーブ・クーガンは、時にはカメラに向かって話しかけ、またある時にはナレーションをし、そして登場人物としてもちろん演技をする。あるひとりの人間によって語られるドキュメンタリーというごく普通の映画であるにもかかわらず、どういうわけか「音楽」と「マンチェスター」ばかりがとりあげられていて、本来のこの映画について語られるということが少ないような気がする。もちろん、この映画を見て、「ファクトリー」も「ニューオーダー」も知らない人がみたら、面白さは半減するかもしれない。しかし、この映画の面白いところは逆にそこでもある。オープニングタイトルからしてこの映画はある程度コアなファン層にアプローチをしてくる。それこそまさにファクトリースタイルではないか。そして輪をかけてこの映画のオープニングタイトルときたら、本当に読みづらいのであるが、実は逆にそれがまた効果的になってもいるのである。この読みづらいタイトルバックのどこかに、自分の知っている役柄や名前を発見するのもまた映画のひとつの楽しみであるといってもいい。実際私個人として最も驚いたのは仕事柄か、pieter savilleというクレジットをイアン・カーティスといったミュージシャンと同じように見つけたときであった。もちろんファクトリーを語る上で、ピーター・サヴィルというアートディレクターの存在は重要である。しかし彼の名前を出演者のあの読みにくい文字の中で見つけた瞬間に、これをみてすぐにわかる人というのは、そんなに多くはないかもなあ。ミュージシャンだっていまの若い人たちにはどうなのだろうか?と思ったのも確かである。

ファクトリーとピーターのグラフィックはまさにそういったコアな部分で重要な要素でもあったのである。ピーター・サヴィルのデザインは決して、全ての人たちを満足させるようなものではない。ある種の特定の感性を持った人々にそのヴィジュアル、グラフィックはずしりとツボにはまってしまうのである。映画の中でピーターがデザイン的な話しをするところは少ししかなかったのがちょっと残念だったのであるが、ピーター・サヴィルというアートディレクターが、ミュージシャンやプロデューサーと同等にこういった映画の中で出てくるというのが興味深いといえば興味深い。レコードスリーブをデザインするデザイナーは本来は裏方であるにもかかわらず、やはり80年代くらいを中心に、いろいろなところから注目を浴びてきているのと、またレコードスリーブデザインそのものがとても面白くなってきたのもこの時代からだったといってもいい。

というように、この映画の本来の部分ではない、こんなコアな部分で私がなにかを感じたように、この映画は人によって、いろいろな部分でなにかを感じさせてくれるに違いないと思うのである。もし仮に「ニューオーダー」や「ファクトリー」を知らない人だったとしても、これはもう一度くりかえすが、あるひとりの人物の伝記「映画」なのである。映画であるからには映画としての面白さだってもちろんある。

この映画におけるトニーウイルソンは実に魅力的な人物である。(ロンドンにいる私の友人は「映画。もちろん見たさ。あの頃マンチェスターは面白かったよ。ハシェンダにも何回も行ったよ。トニーにもあったことがあるけど。でも映画と実際のトニーは少し違うよ。彼はもっと普通の感じだった」と彼はいうが)映画の中での彼の語り口調。ファッション、そしてそのセリフ。時には、そのはちゃめちゃな振る舞いなど、映画のなかでスティーブ・クーガンもなかなか魅力的だ。映画だからこその脚本の面白さを語らずしてどうするというのだろうか。事実だけの映画なんてよほどのことがないかぎりつまんないものになるにきまっている。彼の少しハスキーな声。クイズの司会者としてつまらなさそうに仕事をやる時の彼の表情。そしてもちろんセリフだって気になる。この映画を単純に、マンチェスターカルチャーを代表する映画だと語る以前に、やはりひとつの映画としてみたらそこにはまた違う別の見方がある。ひとりの男、たまたまマンチェスターを舞台にした様々なドラマ(いわゆるテレビドラマのドラマとは少し違うニュアンスのドラマであるが)が時にはクールに、そして最後は少し感傷的に描かれている。

映画として『24HOUR PARTY PEOPLE』のことを語ろうとするとここにはいろいろな要素がたくさんつまっていて、人によってどこから語っていいのかきっと困ってしまうに違いないだろう。でも自分としてはやはりあの頃の東京を舞台に誰か映画をつくってくれないかなとずっと思っているのである。マンチェスターだけではない、東京だって80年代は面白かったはずである。

Text:Toru Hachiga





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