実は、と改まることでもないのだが、フランソワ・オゾンを好きになったのはつい昨年のこと。『ホーム・ドラマ』も『クリミナル・ラヴァーズ』もセンスの良さこそは理解できるものの、イマイチ琴線に触れてこなかったのだ。だからこそ、僕にとってオゾンは『焼け石に水』でやっと発見した、フランス気鋭の正当なる映画作家と捉えたい。何せファズビンダーの戯曲を見事に料理した上で、キャメラの前に4人のキャストを横並びさせ、その平淡なれど完ぺきな構図の中でサンバを踊るのだ。バイセクシャルにして男根至上主義者のレオポルド(ベルナール・ジロドーの名演ぶりは最高!)を巡って入り乱れる男女の関係を湿度と節度を持ってかつ裁いていく手腕、リュディヴィーヌ・サニエの発見、モダンな空間演出と色彩構成、そしてファッションセンスの良さはそのまま『8人の女たち』に引き継がれたといっていい。オゾンはかつて、インタヴューで次のように語ったことがある。

「女の誘惑は男のそれより数倍強く、残酷である」

う〜ん、おっしゃる通り。シャーロット・ランプリングを甦らせた『まぼろし』も含め、彼の作品に通底するドラマツルギーをも結果的に言い表している名言だ。本作ではそんな女の業を8人分まとめて料理しようってんだからその心意気たるや、はたまた舞台裏で起こりうるであろう女優たちへの気遣いによる心労を思うと、アッパレとしか言いようがない。全員の見せ場を並列させ、それぞれの唐突な唄とダンスを織り交ぜながら、ひとつの物語として展開させてゆく手腕の確かさ。クレージー・キャッツの歌謡映画を想起するのが最も正しい解釈と捉える一方で、カトリーヌ・ドヌーヴとファニー・アルダンの取っ組み合いはトリュフォーの女たちによる遺恨試合などとも裏読みし、そこにオゾンの血統の良さまで感じるわけだ。エマニュエル・ベアールが三十路を迎えていてもメイドを演じ、ヒステリックなイザベル・ユペールに、ヴィルジニー・ドワイヨンとリュディヴィーヌ・サニエの姉妹など、見事としかいいようのない配役のバランスも、今だからこそ実現可能なものだった。1950年代が舞台だけに、ニュールックを意識したテーラード系ファッションも、豪華さと彩りの美しさがあいまって絶妙。そういえば、これって主人殺しのサスペンスだったっけ? などととぼけたくもなる、若年寄オゾンの超絶技巧作なのである。

Text:Co Ito(Petit Grand Publishing
フランソワ・オゾン監督

1967年パリ生まれ。父親のカメラで11歳の時から8ミリを撮りはじめる。89年にパリ第一大学映画コースで修士号を取得。いま、フランスでもっとも注目される若手監督のひとり。

主な作品:
『サマードレス』
『海をみる』
『ホームドラマ』
『クリミナル・ラヴァーズ』
焼け石に水
『まぼろし』
8人の女たち

現在、シャーロット・ランプリング とリュディヴィーヌ・サニエが共演する新作『Swiming Pool』を製作中。

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