いまや世界中のキッズのロールモデルとなったエミネム。デビュー・アルバム『スリム・シェイディLP』は全世界で700万枚というセールスを記録し、グラミー賞をはじめ、MTVアワード、ビルボード・アワードなどの音楽賞を独占。ずば抜けたライムの才能とカリスマ性をあわせ持つエミネムは、ヒップホップ界が生んだ怪物と言ってもいいだろう。白人のラッパーというと、とかく冷ややかな目で見られがちだが、エミネムはデトロイトのヒップホップ・シーンを自力で這い上がって来た人物(エミネムのプロデューサーであるギャングスタ・ラップ界の大物、ドクター・ドレーがラジオでエミネムのラップを聞き、黒人だと思ってコンタクトを取った…というのは有名な話だ)。そこいらのアイドル・ラッパーとは違うのだ。

『8マイル』はそのエミネムの自伝的サクセス・ストーリーをベースにした映画。ここに描かれているのが実際にあった出来事なのかというと実はそうではないのだが、エミネムの過去がこの映画のインスピレーションソースになっているのは間違いないし、誰が何と言おうとこれは「エミネムの映画」だ。なぜならわたし達は、スクリーンの中に生々しい素顔のマーシャル・マザーズ(=エミネムの本名)の存在を感じずにはいられないのだから。

そしてこの映画は、エミネムの映画であると同時に、ヒップホップの本質をきっちりと描いた作品となっている。単にBGMにヒップホップが使われているだけの、安っぽいヒップホップ・ムービーではない。1995年ごろのデトロイト・ヒップホップ・シーンが真実味溢れる形で描かれ、そこで苦悩し、オーディエンスを沸かせる自信を身につけるまでの若き日のエミネムの姿は、シルヴェスター・スタローンの『ロッキー』のように、観る者に勇気を与えてくれる。

正直なところ、これまで、ヒップホップスターとしてのエミネムには、全く興味を持っていなかった。“EVERY MOMENT IS ANOTHER CHANCE(あらゆる瞬間がチャンス)”---『8マイル』を観ようと思ったのは、このいかしたコピーのせいだった。チャンスをものにするかどうかは自分次第。このコピーに違わず、『8マイル』は観終わった後に、清々しく、そしてアツい気持ちにさせてくれる。こんな映画は手放しで支持せざるを得まい。

Text:ayako nakamura

『8マイル』
監督:カーティス・ハンソン/製作:ブライアン・グレイザー/脚本:スコット・シルヴァー/キャスト:エミネム、キム・ベイシンガー、メキー・ファイファー、ブリタニー・マーフィ他
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