かわいいいっ+ちょい哀しい=ロシアの人形アニメ『チェブラーシカ』が、この夏登場!配給に初挑戦のプチグラ伊藤こと伊藤高さん、ちょい脱線ロング・インタヴュー!

チェブラーシカは、小熊のような、子猿のような、ヘンテコな生き物。すぐコテッと倒れるところから「ばったりたおれやさん=チェブラーシカ」と名付けられたんだけど、その淋しそうなふるまいや、首の傾げ加減や、ちょっとけば立った毛の感じ(笑)が、もうどんな人にも「かわいいいっ+ちょい哀しい」って気持ちを呼び起こしちゃう、なんとも「キャラ者」(?江口寿史)ゴコロ揺さぶる凶悪なキャラクターなのだ。ところで、モスクワの動物園では、動物達は開園前に出勤して檻の中に入り、閉園後にはちゃんと出勤ボードの名札を「出社」から「退社」に掛け替えて自宅に帰る------っていう、サラリーマンみたいな生活をしているらしい。多くは独身なので、都会の淋しい独り暮らし生活は、自由でもあるが、実は結構こたえてる様子。紳士的なワニのゲーナも、そんな一人(一匹)であった……。------今回紹介する『チェブラーシカ』は、そんなワニのゲーナとチェブラーシカのコンビが繰り広げる、実に何ともロシアンな日常(?)を追った、3本の人形(パペット)アニメーションなのだ。

というわけで、詳しくはコッチをみてもらうことにしよう。

で。UNZIP一発目のインタヴューは、この『チェブラーシカ』で配給に初挑戦する、プチグラ伊藤こと伊藤高さんだ。雑誌Petit Glamをはじめとして、映画やファッションや写真などに関するオシャレで渋い出版物をたくさん手がけている「プチグラパブリッシング」の社長さんである。もちろんインタヴューの主眼は『チェブラーシカ』についての取材なんだけど、話は最初からオリーブの話やカフェの話などに脱線してしまい、なまじなパブ打ち(宣伝用)取材とはひと味もふた味も違う(←って自慢げに言うな!)、ちょっとヘンな展開になったのだった……。でも面白いから(自画自賛)、ま、いいか(笑)。なんだか訊きたいことがありすぎて、ちょっとツッコミ不足な面もあるけど、多岐に渡った「プチグラ伊藤さんをめぐるお話」、どうか愉しんで読んで、伊藤さんオススメの映画も含めて、『チェブラーシカ』をぜひぜひ、観て欲しいのであった。





■■まず。オリーブ・ファンと伺ったので…
[UNZIP中村] 知り合いの編集者の方に、「オリーブ」ファンだと伺ったんですが……。
---ああ、ついに復刊しましたねオリーブ。えーと……どうです?

伊藤:「それは非常にヤな質問ですね(笑)。復刊号は買いましたが、GINZAの妹版というコンセプトで作られたらしいんだけど、だからどうだっていわれちゃうと困る感じというか。オリーブにはあの誌面サイズは大きいかも……」

---“かわいい”ってのをひとまずの切り口にして、“プチグラ伊藤さん”という人柄に迫ろうと思ってたんですが(笑)、新生オリーブから話を持っていこうとしたのは、いきなり間違ったかな?

伊藤:「今のオリーブは、まあ、かわいいってのより、格好いいって方向のようにみえますけど、うちの話じゃないですから判りません」

---ひょっとしてプチグラっていうのは、昔のオリーブを作りたかったって感じなんですか?

伊藤:「いや、それならオリ−ブの編集部に入ればいい話なんで(笑)。ああいったものが好きなのは間違いないですが、それはオリーブだけじゃなくて。例えば“プチグラ(Petit Glam)”の名前の由来って、もともと“グラムール(Glamour)”からきてるんですね。今はもうないんですけどフレンチ・グラムールっていう凄くお洒落な雑誌があって。これも大好きだったんですが、フランス版は10年前くらいに無くなっちゃった。アメリカ版とイタリア版はまだありますけどね。他にも海外の雑誌で、“バンタン(20ANS)”ってファッション誌、これは今もありますけど、そういうセンス良く、かわいらしい女の子がけっこういっぱい出てて、日本で出てるものだとオリーブのような、やわらかい雰囲気だとか、ちょっと文系寄りなタッチの面白さのあるものだとかが、いいなと。そういう雰囲気のものを作ってみたいなと思ってて。最初はファンジン的なものを作ったんですよ。1号目だけ、今のとはちょっと全然違うものなんですけど……見かけたことあります?」

[UNZIP中村] ミッフィーの特集(Petit Glam no.3 Paradise in pictograms iss ue)とか家具の特集(Petit Glam no.6 Future Interior issue)とかはもってます。そういえば青山ブックセンターで100円で売ってた、ムーマガジン(mu magazine)のちっちゃいのとかも、ここが発売元なんですよね。

伊藤:「はい。ウチであの前にもっと大きな、ちゃんとした雑誌の形態をしたものを扱ったんですけど、あれは実はオーストラリアの雑誌で小さいものは『フリーで配れないかな』と言われて。ウチとしてもフリー(無料)で卸してるんですよ。で、それを書店さんがちょっと値を付けているんです。海外の雑誌ではよくあることなんですが……」

[UNZIP中村] どうして100円で、というかフリーペーパー値段でこんな可愛い雑誌が売れるのかって思ってたんですが……。

伊藤:「最近、次の号も出てて、少し配られましたね。結構力は入ってるしフルカラーですからね。どうやって採算とってるのかはよくわからないんですが(笑)」

---広告収入がかなりあるんでしょうかね?

伊藤:「ウチは『日本でのディストリビューションをちょっとお願いできない?』みたいな話で始まったことなので、そこはタッチしてないので判りません。……あ、これがプチグラの1号です。ミニコミ的な感じなモノです」(メモ帳サイズのかわいいミニ雑誌風のものを見せてもらう。これがバカ売れした話は後ででてくるゾ)





■■「プチグラ伊藤」といえばTVブロス「試写室に火をつけろ!」……ってのは僕だけ?

---伊藤高さんの正式な肩書きって言うのは、プチグラパブリッシングの代表というか、社長さん、でいいんですか?

伊藤:「一応そうです」

---僕はTVブロスって雑誌の、映画欄の中の小コーナー『試写室に火をつけろ!』という連載の印象が強くって、プチグラ伊藤さんといえば、真っ先にアレが浮かんじゃうんですが……。

伊藤:「映画好きな人ってブロス読んでる人多いですからね。文字数が少ない割には結構いろんなものを突っ込んで書いて欲しいといわれてるので、僕もミルクマン斉藤さんも、消化不良になっちゃうことが結構あるんですけどね(苦笑)。」

---かなり削ってる?

伊藤:「相当削ってます。あれはお互いにメールでバアッと書き合うんですよ。それをガガガっと削っているので、もう一歩踏み込んで言っとかないと、本意が伝わってるのか?みたいな想いはいつもあって。例えば誌面上だと評価が真っ二つに割れてるようでも、そうではなくて根本的にはだいたい一緒なんだけど、考え方の流れだけがちょっと違うだけみたいなのは、どうも伝えにくい。難しいですね」

[UNZIP中村] それは載らなかった部分をぜひ読みたいですね。
---ウェブ上だとダラダラ書けるし、テープ起こししてもニュアンスを大切にしたカタチにできるんですけどね。でも雑誌で文字数制限があった方が、かえってタイトになってインパクトが出せるので、印象深くはありますけどね。

伊藤:「良くも悪くもダメをダメって言ってオシマイみたいな感じはありますから(笑)」

---連載だと、ミルクマンさんの方がより毒舌で、伊藤さんはフォローにまわってるって感じですよね?

伊藤:「まわってます(笑)。そういうスタンスでやってますね」





■■プチグラ伊藤さんのプロフィール根ほり葉ほり
---失礼ですが、今、お幾つですか? というか、どういう経緯でこういう仕事をしているのかってのを参考に(←何の?)伺いたいんですが……。

伊藤:「僕、今31です。もともと関西で仕事を始めているんですけど、関西で出ていたマッキントッシュの情報誌でマックプレスという雑誌がありまして。サクレって神戸の会社でやってたんですが、その編集をしていたんですよ。大学を出てから、最初フリーライターとして仕事を受けてたんですけど、すぐ編集として内部でやることになって、3年くらいいました。入って1年後くらいしたら上司が辞めたので僕が編集長になっちゃって、その後2年間ぐらいやってました。媒体自体が東京のニューズベースというところに身売りして、スタイルが変わるものになるということで、そこを辞めて、平行してはじめてたプチグラを事業として始める、という経緯です」

---出身は関西? プロフィール的なものを敢えて突っ込んで訊かせてもらえれば(笑)。

伊藤:「育ちはほとんど関西で、生まれは九州の福岡生まれなんですが、ほとんど関西で育って、大学も関西です。生年月日は1969年9月21日、ですね」

---ということは小山田圭吾と一緒ですね(他には福山雅治、武豊、山瀬まみとかと同じ年齢)。

伊藤:「そうですね。両親や親戚はほとんど関西に住んでたんですけど、みんな九州出身で、出産の時だけ実家の大牟田っていう、三池炭坑の隣町なんですが、そこに里帰りして。だから籍だけは九州人なんです。育ちは京都の宇治に10年弱、滋賀に10 年弱住んで。で、大阪芸術大学に行くのに大阪に住んで、それからマックプレスの編集部は神戸だったんで卒業して神戸に3年ぐらい……と、育ちはずっと関西。東京に来たのは去年の1月くらいですね」

---大阪芸大での専攻は、映画学科なんですか?

伊藤:「僕がいたのは芸術計画学科、アート・プランニングというものです。その中でビデオを中心にやってたんですが、当時、ビデオの編集をするのに“アミーガ”ってマシンがありまして……」

---『ウゴウゴ・ルーガ』とかのアニメで有名なヤツですね。

伊藤:「あれとか凄く欲しくて、いろいろ調べていくうちに、マッキントッシュだったら日本語が使えるな、とか、クイックタイムを使うとできるみたいだな、とか。そういうのがわかり出した頃だったんです」

---それでマック雑誌に。

伊藤:「マッキントッシュの情報誌ってのはちょうどイノベーションが上り坂だったシーズンで、凄い面白かったんですよ。今だとブロードバンドみたいなのがある程度見えてきたんで、できることはだいたいわかっちゃったんですが、それまでは文字が扱えるようになって、音が扱えるようになって、動く映像が使えるようになって……、ちょうど僕が興味を持った時代に駆け上がっていったんで、すごい面白かった。ただここまでくるとどことどこが提携してという覇権争いみたいなビジネスの話になってくることが多いんで、あの、初めてコンピュータで画が動いた感動みたいなのとは、またちょっと違うステップに入ってて自分の興味の範疇とは違うなと。それはそれで重要なんですけれども、コンピュータ自体に関する面白味みたいなものは、ちょっと自分の中で失せたみたいなところがあって。大学で専攻してたのは、“サイバースペースの未来像”みたいなことをテーマにしてたんで、どうしてもそういう所に興味があって……。ISDN一本でニューメディアからマルチメディアに至る、日本でのNTTの動きとか面白いんですけど、辟易する部分もかなりありました」

---その後、プチグラを立ち上げたんですね。これは地方出版、小出版社をやろうとして立ち上げた?

伊藤:「そんな大層なモンじゃないんですけどね。最初に作ったのがこの小冊子ですから。ただ、これはタワーレコードですとか青山ブックセンターとかでバカ売れしまして……。これはこれでファンがついたんですけど、このままやっててもミニコミの範疇を越えないんで、こういう小さいもので、これを情報誌的なファッション誌にするよりは、もうちょっと違うクオリティ誌にしたいな、と考えて、2号目から、こういう---アーティスト・ブックと言ってるんですが---別冊を一緒にセットにした、ヴィジュアル・ブック的な作りのものを打ち出したんですよ。それと同時に映画の本なんかも作り出したんですね。2号目はフリップ・フラップが表紙の号で……」

---このプチグラ1号、96年創刊号ってのが、全ての始まりなんですね?

伊藤:「そうですね。この頃はまだ会社で仕事をしてたんですよ。会社がニューズベースになって半年ぐらいですけど……」

----あれ? この雑誌名はPetit 「Glam」で、会社の名前はPetit 「Grand 」Publ ishingなんですね。このプチグラの「グラ」は「グラマー」の略ってだけだと思い込んでました。雑誌名はフランスのファッション誌のちっちゃい版ってことですよね。「ちっちゃなグラマー」みたいな意味だと。これはグラム・ロックのグラムでもあるのかな、ブリティッシュな感じというか、グラマラスなイメージなのかな……オリーブ的「リセ」ともまた違うのか? ううむ。で、社名は「小さい大きい」って意味なんですね。

伊藤:グラマーってのは本来魅力的という意味の言葉で、雑誌的なものではないものを目指そうとした時に「Petit Glamour」を「Petit Glam」という綴りに変え、小さくて魅力的なものという意味でプチグラと読ませるようにしました。オリーブの話でもいいましたが、グラムールのちっちゃい版が作りたいわけではないし、版権もとってるわけじゃないからそれは語弊があります。社名は、小さいながらも大きな、意義のある仕事をする出版社であるという理念です。





■■プチグラが考える「オリーブ的よさ」とは何か?
---今日、来る前に「オリーブ的とはなんぞや?」みたいな話をしてたんですが。あえてオリーブ・ファンってところにこだわりますが、具体的にはあの雑誌にあった独自のオシャレさっていうのか、ちょっとしたライフスタイル的なこだわりが魅力なのかなって思うのですが?

伊藤:「オリーブは大好きで良く買ってたのは確かですが、僕は昔からキューティも、(MC)シスターとかも好きで買ってはいたんですよ、ずっと。女の子の雑誌ってものが好きだったので。それぞれの雑誌の良さも悪さも今なら良くわかりますが、それを僕がどうこう言える立場じゃありません。全てがオリーブから出発したようにとられるのも困ります。ウチの本はデザイナーの方が買われたりするのも多いんですけど、デザインの良さや写真の良さを、より良い形で見せることに気を使っています。あと、ディック・ブルーナを特集した時など、ミッフィから動物園のサインデザイン、絵本やオモチャなどいろんな事象を、“ピクトグラム”というキイワードで捉え直すということをやったんです。そういう考え方の新しいスタイルを提案する------みたいなことは、常々やりたいと思ってることなんですね」

---考え方の新しいスタイル。

伊藤:「ええ。つまりある既成の価値観を持ったものについて、こういった観方をすると面白いでしょ?という提案が、そこにひとつある感じなんですね」

---新しい、面白い観方の提案、ですね。プチグラさんの本には、タイポグラフィのこだわりみたいなのもあって、これはBT(美術手帖)7月号のオプ・アート特集にも、伊藤さんが寄稿した記事があって、読んで腑に落ちるところがあったりしますが……。

伊藤:「あれはインタヴューですけど(笑)」

---インタビュー前に泥縄で資料かき集めるタイプなんで(苦笑)。このBTは特集が気になったのでチェックしてて偶然発見したようなものですが、実はプチグラパブリッシングさんのデザイン的な方向性で、特に僕が好きなのは、“ロシア構成主義”の流れみたいなのが、実は好きなんじゃないか?って思える部分なんですが。

伊藤:「好きですが、プチグラのデザインとは違います。北欧系のデザインは多少意識しているかもしれませんが、それはディレクションをお願いしている後藤さんの好みが多分にありますね。『weird movies a go! go!』は、もともと近藤朋幸さんって個人の方にやってもらってたんですけど、この人は今、グルーヴィジョンズにいたりするのでスイス・グラフィック系ではあるでしょうし。他に『チェブラーシカ』の絵本作ったりしてるんですが、これはNANAさん(注:relaxのアートディレクションなどで知られる小野英作さんの事務所)っていうところで。できるだけシンプルなデザインで、なおかつ美しくて、ちょっとそこに可愛らしさも微妙に落とし込めるようなスタイルっていうのが、たまたまウチでやってるものには多くて。もちろん違うものもありますが……。プチグラに関しては“ユニバーサル・デザイン”も同時に目指していて。介護医療の現場なんかで良く使われる言葉ですけれども、要は誰にとっても使いやすいものである、と。プチグラの場合は、誰にとってもわかりやすいデザインであり、なおかつそれがオシャレにみえる、とか高級感がある、というようなアプローチを前提として考えているんですよ」

---まずは万人受け、難解じゃなくわかりやすい、という前提があって、その上で……という?

伊藤:「万人受けと判りやすいというのは違うと思いますが。内容がやっぱりちょっと特殊なものを扱っていることが多少あるので、それをわかりにくくやってしまうと、さらにわかりづらいものになってしまう。だから窓口を広げておいて、もう一歩奥に入るとこんなものがあるんですよ、という世界観をその中で出せればっていう感じです」





■■映画の仕事へのつながりは?
---わかりました。ところで、そこから映画へのつながりっていうのが、どうつながるのか? ということなんですが。ここ数年の日本の映画監督の回顧上映とかが新しい感性で催されて、ちょっとしたブームになっていますが、そういうもののプログラムやヴィジュアルを手がけてますよね? えーと、確か『ミスター・フリーダム』(写真家ウィリアム・クラインによる早過ぎたポップ・カルト映画で、『スーパーマン』の政治的シニカル・パロディ的、にしては楽しげでキュートなデザイン感覚が炸裂しててグーだ)あたりからですか。

伊藤:「それはウィアード・ムーヴィーズ(weird movies a go! go!)の1号目が出る少し前からですね。あと補足ですが、回顧上映を催しているのはあくまで映画会社で、うちはそのパンフを作ったりチラシを作ったりしてお手伝いしているだけです」

---ミルクマン斉藤さんとの付き合いについては?

伊藤:「マックプレスをやってる頃に、グルーヴィジョンズの伊藤さんと知り合いになったんですが、その当時、関西で面白いことやってるって注目されかかってる頃で。そのグルビの伊藤さんから、相棒なんだけど『この人はオモロイよー』って紹介してもらったのがミルクマンさんなんです。そこからミルクマン斉藤さんが“ウィアード・ムーヴィーズ・ア・ゴー・ゴー”って名前でビデオ・パーティを関西でやってたのを、フライヤーを作ったり、場所をセッティングしたり、個人的に手伝いをしたりして」

---ミルクマン斉藤も関西の人なんですね。

伊藤:「そうです。ずっと京都にいて、2年前くらいに大阪に移ってますが。僕は大学時代に映像をやってたので、映画関係の仕事をいずれしたかったんですよ。で、斉藤さんという人は、稀にみる映画狂な人なので、この人と組んで何か本を作りましょうよって話を持ちかけて……。ミルクマンさんは、モダニズムが非常に好きな人で、日本映画の中でのモダニズムっていうのを最初にまず語りたいってことで1号目はああいうカタチになったんですよね。今は増刷した改訂版なのでヴィジュアルが違いますが、これはロリータ特集と、その日本映画のモダニズム特集の2本立てなんです。で、この本をみてくれた映画関係者の方が『これは面白いことになるかも』みたいなことを考えられて、話をウチに持ってきて下さったり……という流れはありますが」

---大映さん、日活さんですとかですね。レトロスペクティヴ(回顧上映)っていうのがお洒落なカタチで流行りだした、まさに走りですよね。

伊藤:「そうですね。今見てもオシャレでモダンでなおかつ非常にクオリティの高い映画っていう流れを、僕らの本の中で紹介した人達で、まず注目されたのが市川崑さん。彼は昔からよく知られた方ですし、本を出すキッカケになってる監督なんですよ。『黒い十人の女』がリバイバル公開されて、古い作品も見方を変えればいけるんじゃないか?みたいな流れが、これで火がつきはじめていたからというところがある。それが崑さんだけじゃなくて、もっといろいろな人がいるんですよというのがこの本の特集なんです。それから、中平康さんっていう『月曜日のユカ』という加賀マリ子さんが出ている作品の映画監督が、実は非常に面白い映画を撮られているというので、日活の方と一緒に特集上映やりましょうよ、っていうのがうまく当たった感じですね」

---『月曜日のユカ』はすごい話題になりましたね。『黒い十人の女』の方は、昔、UNZIPの前身の前身であるcinema POVってウェブマガジンで、特集させてもらったことがあります。確かにモダンですよね。

伊藤:「今度、新作になるという話もあるそうですよ」

---リメイクですか。へええ。古いものでも、観方を変えれば、というか今の観方で観ても面白いっていうのが、こういう新しいリバイバル上映の発見ですよね。

伊藤:「そうですね。中平康さんの作品では、京都にイノダコーヒーという有名なカフェがあるんですけど、その旧館が出てくるんですが、いい感じでお茶を飲んでるシーンがあったりするんです。そういうのが最近のカフェ・ブームとたまたま合ってたりしていて。いろんな切り口がうまくはまったものではあったんですよ。まあ、あんまりカフェによった話は、ウチとしては関係ないんですけどね」

---なんだか編集的発想っていうのか、面白さを見つけてくる方法に、独特のものがありますね。僕は最近、山本政志さんの古い映画をまとめて見たんですが、初期の映画の飛田遊郭や釜ヶ崎あたりの描写って、たった10年ちょい前の映像なのに、記録映画としても凄い、今見るとかえって面白いって小さな発見があって。そのもっと広いスパンでの日本映画の見直しをしているんだなぁって感じがします。それは小津安二郎を海外の作家が持ち上げるのを逆輸入したりする、旧来のやり方とはまた違う方法ですよね。

伊藤:「50〜60年代にかけての映画というのが、モダニズムの流れで作られているのが結構あったんで、それをうまく、あの特集の中では紹介しようと考えたんです。最近だと、80年代の映画とかがだいぶリバイバルされ出しているんで、そうするとまた別の流れがあるのかも知れないと思いますけどね。青春映画の復権を目指したいってことなんですが」

---ん? タノキン映画とかカドカワ映画ですか?

伊藤:「角川映画は重要ですよ。判りやすくはジョン・ヒューズの一連の作品とかですね」

[UNZIP中村] あ、私も大好きなんです。(注:ジョン・ヒューズは『すてきな片想い』『ブレックファスト・クラブ』『フェリスはある朝突然に』などを監督・脚本。また『プリティ・イン・ピンク』『恋しくて』の脚本も。)

---そういえばアラン・パーカーの『バーディ』(84)のこと、TVブロス連載でチラッと書いてましたね。

伊藤:「あれもちょと捻れた青春映画ですよね」

---今は亡き大毎地下って名画座で見て、すごくハマった、個人的に大好きな映画なんですよ。

伊藤:「いい映画ですよね。あとコッポラの昔の青春映画も傑作だし大好きなので、そういうのを見直すってのを個人的にやりたいなと思ってるんです」

---ウチのマガジンでもぜひ、何か面白いネタがありましたら、書いてください!

伊藤:「(苦笑)」





■■そろそろ『チェブ』の話をしなくちゃ
---いかん、全然『チェブ』の話にいってない(笑)。映画の配給は初めてですよね? 『チェブラーシカ』を配給することになったいきさつっていうのは?

伊藤:「これはですね。ラウル・セルヴェっていうベルギーのアニメーション作家の特集上映が、去年の11月にユーロスペースであったんですよ。その企画をウチでやってまして。配給をやってたのは吉本興業で。大阪の梅田花月、寄席をやってる劇場で、夜だけ映画館になってたんですよ。レイト・ショーなんで名画座と同じで、結構自由に企画が組める。その企画をウチで手伝ってたという流れがあって。その中でロシア映画特集、ロシアのアニメーション特集というのをやったんです。『雪の女王』とか有名な作品をいろいろと。その中の一本として上映したのが『チェブラーシカ』だったんです。たいして宣伝してなかったんですけど、いざ開けてみると、一週間ぐらいの上映だったのに口コミでどんどんお客さんが増えていって……これはいいなと。実際に映画を見てもらうとわかるんですけれども、とにかく可愛くて、哀愁があって、しかも作品が非常に良くできているんですよ、パペット・アニメーションとして。キャラクターの造形は、作品によってマチマチだったりはするんですけど、ひとつひとつの動きが非常によくできてる。最近のパペット・アニメーションでもここまでできるのは無いんじゃないか?ってくらい。これは時代的な問題であるんですけれども。ロシアの非常にいい時代で、ゆっくり時間をかけて作れていたんで。資本主義社会下で作るとそういうワケにはいかなくなってしまいますからね……」


---社会主義下でアニメ作家が手厚く保護されていたソ連時代ゆえにできていたものですね。宮崎駿さんとかが憧れていた。東映動画の労組的な……。

伊藤:「そうですね。高畑(勲)さんもユーリ・ノルシュテイン、『話の話』のアニメ作家の本とか作られていますね。最近ちょうど復刊されたりしてますけど(注:徳間アニメージュ文庫にも入ってます。『千と千尋の神隠し』&ジブリ・コーナーのある書店で見かけました)。……そういう流れがあって、次にこの映画を特集上映として買おう、となった時に、吉本興業の方ではたいしてビジネスにならないんでダメだという話になって。で、それがスピンアウトして、ウチの中に入ってやるってことになったんです。配給は初めてですが、一緒にやってみましょうということに。ただ、ラウル・セルヴェで、仕組み作りはある程度できていたし、それをもう少し拡大したヴァージョンで巧くみせていくことはできないかな、と。ユーロスペースさんでは中平康や増村保造特集などでうちが関わったものが当たってることもあり、是非にということになったんですね」

---ラウル・セルヴェ、見てないです、すいません。

伊藤:「レイト・ショーだったんですけど、これもけっこうロングランして、3ヶ月くらいやってましたね」
(注:「『夜の蝶』〜ラウル・セルヴェの世界〜」として上映。7月14〜27日に吉祥寺バウスシアター「ヨーロッパ・アニメーション特集」でも公開! 観逃した人は要チェキ!→特にオレ)

---この流れで『チェブ』にいくというワケですか。インターネットとかを見てると、ロシア通の人達をはじめ、知る人ぞ知る人形アニメみたいですね。そういえば、なんかもう1話あるらしいんですが? 全部で4本あるとか。アフリカに里帰りしたゲーナからの手紙を読めなかったチェブが、どうのっていう『チェブラーシカ、学校に行く』って話が……。

伊藤:「ありますね。実は、この作品だけキャラクターが大分違うんです。登場人物は一緒なんですが、造形はかなり違うんで、並びで見るとどうかなあ、と……」

---敢えてハズしたんですね。

伊藤:「ええ。実はDVD版、これはいつ頃出すかはまだわからないんですが、そのDVDには特典オプションとして入れようかと思っています」

---それは欲しい!ですね。もともと原作の絵本ともかなり絵が違うようですし。この3本も、制作年代が違うので、微妙な違いが面白いですね。

伊藤:「そうですね、第1話だけゲーナの造形がやたら細かくて、よく見ると結構怖いんです(笑)」


---あれはもともとワニのゲーナが主人公なんですよね、実は。

伊藤:「そうです、『ワニのゲーナ』というのがもともとの原題ですね」





■■『ロッタちゃん』のバムセ的ハマり方もあり?
---去年、UNZIPの前身cinema“P”の1回目で『ロッタちゃん』の特集コラムをやったんですけど、あの『ロッタちゃん』も江戸木純さん、ミラクル・ヴォイスさんでしたか、映画配給の専門家じゃない人がやりたくてやって、それがかなりヒットしたので、実に面白い現象だって思ったんですが……。

伊藤:「ウチもそういう流れにあるのかもしれないですね。『ロッタちゃん』もリンドグレーンの原作本があって、それでああいう映画が実はあったという」

---児童文学として昔から有名で、っていう共通点があるのか。

伊藤:「そうですね。実は『ロッタちゃん』はビデオが劇場でやるからに前に既に出ていて、古いビデオがTSUTAYAにあったりするんですよ」

---へえ、そうなんですか。結局、忘れられてるんですね。TVで昔みたかも、というくらいの懐かしさ、そういうテイストが確かにありましたね。ああいうのを、たぶん若い子は初めて見るんだろうし、今見る新鮮さってのがあるんでしょうね。

伊藤:「ただ、2本目の『ロッタちゃんと赤い自転車』の時に、トークショウに呼ばれて思ったんですけど、あれは時代を問わない普遍性があるんですよ。というのは3歳くらいの女の子なんかが、バムセを抱いて、ちょうど来日していたロッタちゃんに会いたいってそのイベントに来てるんですよ。その子たちには古い映画を見ている感覚はないわけで。だからどんな映画であっても、過去の映画の発掘作業ってのは制作に関わってる側にとってはあるかもしれないんですけど、今見て凄く面白いものは、別に新作に限らなくてもいいな、というのは改めて思ったんですよね。チェブラーシカなんかも、まさに忘れられていたものだったりするんで……」

---ロシアでは『チェブ』は割と有名だとか。

伊藤:「いや、非常に有名みたいです。僕もいろいろ調べていてわかってきたところもあるんですが、向こうだと絵本も相当な種類が出てますし、ぬいぐるみも凄い数あります。レコードとかカセットとかCDもかなりありますし……」

---グッズの販売もされるんですよね?

伊藤:「少しやります。これはぬいぐるみの試作なんですが……。なかなか思い通りに出来上がらなくて、何度も試作を重ねて、だいぶよくなったんですが……」

---おお! ベストなサイズですね。大きさがいい。これは売れますよ、絶対。

伊藤:「他にもカンバッチですとか……」

---ああ、バッチも8種類くらいですか。このバック白じゃないものは試写でもらいました。4種類くらいは見たんですが。

伊藤:「それは非売品のものですね。販売用のものは5種類で白地の背景にロゴが入っているんですよ、各キャラのものがあります」

---このお婆さん(シャパクリャク)もいいですよね。

伊藤:「いい味だしてますよね」

---彼女の「いいことしても有名になれない」って歌。アレは今観てドキッとしますよね。犯罪で有名になるって考え方の事件が増えてるようなので。……ちなみにグッズはバッチとチェブ人形の他には?

伊藤:「あとTシャツやメモ帳など……、あ、バッチは差し上げますよ」

---ありがとうございます。この人形、ベストサイズですよ。なんともいえないペーソスというか……。

伊藤:「ロシアらしい哀愁が(笑)」

---実は僕は小学校時代に、全共闘系の先生にロシアの歌をいろいろ教えてもらったんで、個人的にも懐かしかったんです……「ピオネールはゆくー」とか「コルホーズいっぱいに、白樺植えた」とか、「広い大地」がどうとか「真っ赤なトラクターを並べて」とか「エイヘイ!はるけきー道ィ」とか(笑)、いかにも“共産ロシア”って歌ですね。いまだにいくつか歌えますからね(笑)。2話目のピオネールの話を見て、もうニヤニヤしちゃいました。

伊藤:「CUTの編集部の伊藤さんの友達も、学校のロシア語の授業の時、『チェブラーシカ』の歌を課題で歌わされたとか。あのゲーナの誕生日の歌かな、それ歌えないと単位がもらえなくて……」

---なるほど。隠れた面白いものっていっぱいありますよね。ところで、この作品(の配給)をぜひやりたいと思った一番の理由はなんですか? 思い入れといいますか、何が一番の魅力だったか?

伊藤:「うーん。最近、映画関係の本が多かったんで、そのままそういう本だけをやっててもいいんですけど……。まあ『いずれ配給やったりもするのかな』とは、前から周囲には言われたりしてたんですが。で、自分達としても、何か別の素材をどこかから頂いて、その本だけを作る、というスタイルよりは、上から下まで全部、自分達でプロデュースしつつ、何か一つのカタチを作っていければいいなぁ------というのは常にあって。そういったことをしようと思った時に、いい流れでこの話があったりしたんで……。もう話をしだしてから3年ぐらいですから。吉本の担当だった者と権利の問題からずうっとやってて、じゃあどういう展開すればいいかなって話をじわじわ詰めてたみたいなところがあったんで……。やっぱりその作品の規模であるとか、このモノのよさであるとかというのは、ウチが手がけるのに非常に適してるタイプの映画だろうな、と思ったんですよ。もちろん一番は多くの人に伝えるべきいい映画だったことなんですけど。だから『ロッタちゃん』も大好きだし、あれもすごくいいなと思いましたよ。たぶん、ウチが作ってきた、例えば知育玩具みたいなものを紹介したりだとか、キャラクターものでもデック・ブルーナとか良質なキャラクターを紹介するっていうことと、基本的には同じ考え方です。いわゆるブームとして『今、ミッフィーが流行ってます』とか『キティちゃんが流行ってます』とかいう流れとは違う、別のいろんなプレゼンテーションをしたいんです。『チェブラーシカ』はあらゆる意味で非常にいい作品だな、と思っています」

---つまり、ミッフィーを「敢えてピクトグラムとして愉しむ」という発想の延長線上にある?

伊藤:「ウチの内部ではあるでしょうね。それは観る方には関係ない部分だと思うんですけどね。ただのキャラクターもののアニメですよっていうんではなくて、アート・アニメーションとしても非常に面白いし、それがポップなキャラものとして見てもやっぱり面白い、と。そういういろんな切り口があるっていうのがポイントだなと思うんですね」

---なるほど。……今現在の手応えとしては? ミーハーな質問ですが、この夏、キそうな予感とか?

伊藤:「初日二日目とお立見状態なので、なんかいけた雰囲気はありますね。まだそこまでですから、ブームになるかどうかは何とも言えないですね。僕らが日々やってる仕込みが間に合ってるのか? というのはあるし。ホントのところ全然間に合ってないんですけどね(笑)。でもちゃんと認知されて話題になればいいなと思いますね」

---ん? 間に合ってない?

伊藤:「もうちょっとイベントを仕込みたいとか、別チラシ作ったりとか、その情報どうしようとか……細かいモノはいろいろあるんで、そういうのはなかなか追いついてないでですね」

---僕らは今回、雑誌リラックスfor Gilsで見つけて、ピンときたんですけど。

伊藤:「あれは反響は凄くありました。シネ・リラックス史上、応募者ナンバーワンでした」

---あと映画雑誌CUT7月号でも、先程名前の出た伊藤康(Ko Ito)という同じ発音の名前の編集者の方が(笑)、「チェブラーシカ通信」という連載(!)にまでして取り上げたりしてますよね。(注:ちなみに伊藤高さんはCo Itoと綴るようなので、そこで微妙に見分ける)

伊藤:「はいはい(笑)」

---やっぱり何かこう「ハマる」感じがあるんですよね。

伊藤:「そう、ですね」

[UNZIP中村] だってかわいいもん。
---でもモンチッチだよ、いってみれば。

伊藤:「ああ、モンチッチとグレムリンを足して割ったような感じ、とはガーデンシネマの方から言われましたね」

---可愛いヴァージョンのグレムリンですね。この、何というか「あざとい可愛さ」ってあるじゃないですか(←ひどい言い方だな)。

伊藤:「ありますあります。くそうきたないなーというのはありますね」

---そこも、こうメタ・レヴェルに含み込んで、その上でハマる感じってのがありますね。

伊藤:「そうですね。あと男性は、結構ゲーナ・ファンが多いみたいですね」

---はいはい。動物園に出勤してて。チョッキ着て帽子被って、出勤の丸い板を退社にかえて、独り暮らしのアパートに帰る。あの独りチェスのシーンとか、細かい描写がいいですよね。

伊藤:「ゲーナは一番、人間味が溢れてるんですよ」

---プレス資料をみると、それぞれのキャラに裏設定がいろいろあるみたいですよね。ゲーナはアフリカに親戚がいるとか。イジワルばあさんは元スパイだとか……。なので、もっといろいろな話を観たくなる。

伊藤:「なりますね。すごく人気があったから、新作ができるかもっていうのは、版権元の方も考えたりはしてたみたいなんです。ただ監督がもう亡くなっているので、やるとすると完全にプロダクションを組み直さないといけないので大変なんですけどね。原画を描いた方、シュワルツマンさんが、最近ロシアで原画展をやってたりしているんで。もうおじいさんですけど、結構元気な方らしくって。彼の原画展を日本でできたらいいなとは思ってるんですが……」





■■無理矢理「面白い映画ライターさん」談義に突入、この夏オススメの映画なども……
---僕が気になってる面白い映画ライターさんとして、TVブロスの「試写室に火をつけろ」のお二人がまずいて、あとファビュラス・バーカーボーイズの柳下毅一郎さんと町山智浩さん、この2人もTVブロスですね。映画秘宝で書いてるのも好きで……。(ちなみにあとは日経エンタ!連載の松本人志「シネマ坊主」とかヤンマガuppers月イチ連載の黒田硫黄「映画に毛が三本」である)

伊藤:「あの二人はホント面白いですよね」

---かえってわかんないのはリリー・フランキーさん。面白さが僕にはちっともわからなくて……。

伊藤:「リリーさんは、女性受けも異様にいいんですよ。あの飄々としたスタンスがってことだと思うんですけど」

---ああ、人柄が好かれるんですね。いやあ、3年ぐらい前のスタジオ・ボイスで、映画関係者100人アンケートみたいなのがあって。当時のリリーさんのぴあ連載コラム、『日本のみなさんさようなら』って本になってますが、それが1位かなんかに入ってて、みんな必ず読むって書いてのに驚いた記憶があるんです。ハスミやアサダやヨドナガやカワモトサブロウを差し置いて……みたいな。慌てて読んでみたけど……うーむ、と(苦笑)。それからあれよあれよと人気者になって……。今、『タイタニック』『もののけ姫』あたりで映画館が増えて映画人口も増えて、映画雑誌がゴボッて出て、新しい映画ライターもごっそり出てきたじゃないですか。で、昔からキネ旬批判みたいなのはありますけど、年寄りの通ぶった映画評がちっとも面白くないばかりか半分プレスの丸写しで、しかも観方が間違ってたりするのは論外なんですけど、逆に某プレミアや某この映画が凄いなんかだと、何かちっとも作品の奥まで届いてない映画評も増えていて……。若い子が何も予備知識無しに観た感想文みたいなのを読まされるのもヤダなーと。でも観る方も変わってきているのかなあ……。素人の視点で書いて、それを素人が読むのが王道になっちゃったのかもって感じです。でも例えばリリーさん絡みの『ミラクル・ペティント』の売り方とかには、ちょっと違和感を通り越して怒りを覚えましたけど。

伊藤:「(大人なさりげない無視をした上で)今、ミニシアター・ブームも一段落してて、曲がり角なんですよ。いわゆるミニシアター的な映画が当たらなくなってるのは間違いない。で、微妙なのが、それよりもう一歩大きい映画、例えば『ショコラ』だとか、そういうのに客が集まったりしている。ミニシアターにしておくのはもったいないけど、チェーンでかけるにはどうか、みたいな映画が。アスミックさんなんかもそういう路線で当たったりハズしたりしているみたいなんですけど……。かというと、たまに『バッファロー'66』みたいに異様に強度のある映画がでてきたりっていうのもたまにあるんで、何となく活性化している所もあるんですが、簡単な話、映画マニアの為の映画批評ばかりじゃ集客は見込めないし、もっと多くの人を呼び込みたいと思った場合に言葉を捏ね回すようなものばっかじゃダメでしょ。要はバランスだと思いますけど」

---ははあ。『ラン・ローラ・ラン』とかも単館ですね。『ドーベルマン』は単館でしたっけ? 『バンディッツ』とか、新ドイツ映画発見みたいなのは、単館っぽいムーブメントだったのかなあ……。

伊藤:「僕の範疇じゃないですが、映画として面白いか面白くないかということを別にして、新ドイツ映画発見みたいなものばかりじゃちゃんと利益をあげられないし、それじゃ続かないですよ。観る方も変わってきてますね。オリーブが新創刊しないといけなくなってるのは、これまで文化系的なノリで映画を観に行こうとしていた層が、あんまり無くなってきているというのは間違いないですね。そうすると、もうちょっと普通のOLにもわかるようなカタチで、ちょっと変わったスタイルの映画も観てもらおうとすると、リリーさんってのはその触媒にはちょうどいいんと思いますよ。男のファンももちろん多いし。町山さんとかはやっぱりオタク的なノリの人に見事にマッチするんですが」

---確かにマニアックな受けかたですよね。「映画秘宝」的なのも、あれもあれで恥ずかしい部分もある。あの「試写室に火をつけろ!」ってのはダメな映画に文句つけようって方針でもない?

伊藤:「僕は他の方々の原稿にあれこれ言えるほど偉くありません。勘弁してください。自分の原稿でいえば、駄目なモノはダメ、いいものはいい、と言おうというものです。駄目なモノにはっきりダメって言うことが愛情だと思ってますから」

---わっかりました。TVブロスの連載も楽しみにしてますので、これからもがんばってください。しかしどうも相談に来たみたいなインダビューで、すいません(笑)。

伊藤:「ジョン・ヒューズは、何かで(UNZIPでも)押して下さいね(笑)」


[UNZIP中村] 特集したいです。
---しかし映画よく観てますね。映画ライターとしては当たり前なのかもしれないですが。

伊藤:「最近はなかなか試写室に行く暇がなくて、ビデオで観てるのも多いんですが。数はそこそこ観てますね。この夏以降だと、イチオシなのは間違いなく『ゴーストワールド』です。試写だけで4、5回観てます。最初、字幕無しで観て、内部試写を観て、披露試写も観て……」

---あの、試写って、何回も行っていいもんなんですか?

伊藤:「来るなって言われましたけど(笑)。ウチが配給協力してるワケでもないんですが、これは本当にイチオシです」

---ウチは、中村が『メメント』を超気に入ってましたね、そう言えば。僕は観てないんですが。

伊藤:「あれは面白かったですね。僕は字幕無しで観ました。まあ、ただ売りにくいだろうなあ、と思いましたけどね」

---聞いた話では健忘症患者が思い出してゆく感じの話で、ストーリーがどこにいくのか全然わからないとか。

伊藤:「間でちょっと居眠りすると、わけがわからなくなる(笑)」

---へええ。映画の文法自体も最近、変わってきてますよね。『シックス・センス』とかは、あのズルズル感、起承転結もないままグググっと引っ張って、最後に一発のオチってのは、けっこうビックリしました。これまでに無かった、それでいて引き込まれる感覚があって。しかも2回観ると2度美味しい。

伊藤:「『メメント』の場合はそれが常に細かくあって、最後にどんでん返しをするっていうスタイルではある。やはり起承転結じゃ全然ないんです」

[UNZIP中村] バラバラの、同じ場面の繰り返し繰り返しというか……。1時間後も1時間前と画的には全然変わってないっていうところもあったり……。
---????

伊藤:「どっから観て話が違うのかよくわからないって感じはありますね」

---ううー観たい! 観ないとわからん! とにかく伊藤さんのイチオシは『ゴーストワールド』ですね。主演はソーラ・バーチかぁ、あの『ダンジョン&ドラゴン』にも出てましたね、お姫様役で。活躍するシーンが少ないんですが……。

伊藤:「いや『ゴーストワールド』は間違いなくソーラ・バーチの代表作、『アメリカン・ビューティ』よりいいですね。あれもすごい好きなんですけど。つい最近の情報だと、シアトル映画祭で主演女優賞獲ったらしいです。作品賞と、あと主演男優賞(スティ−ヴ・ブシェミ)もノミネートまで入ってて。やっとアメリカでも注目されだしたかなって感じですね。日本の方が宣伝の立ち上がりが早かったっていうのもあるんですが。……僕もリラックス7月号で2P書きました。オススメです」





■■プチグラ伊藤さんの仕事、weird movies a go! go!のno.3についてや『チェブ』関連本の話
---ちなみに伊藤さんの連載は、TVブロスのミルクマンさんとのヤツと、あとは……?

伊藤:「デザイン・プレックスでグッズの紹介のようなことをコラム的なカタチでやってます。あ、7月号には、このチェブ人形の試作品の話を書いてますね、微妙に違うタイプを並べて苦労話を……。リラックスにもいろいろ書いてます。あと7月後半からスプリングの映画欄で書いてます。なんか映画ばっかり増えちゃって。映画は、まあ1本柱にありますけど、違うのもやりたいなあとは思ってたんですけど、なんとなく増えちゃって……」

---ウィアード・ムーヴィーズ・ア・ゴー・ゴーの3号は?

伊藤:「ああ(苦笑)、まさにそれが問題で。『チェブラーシカ』公開前になんとか出そうと今頑張ってるんですけど……ダメでした。特集は“オール・ザッツ・アニメーション”です。20世紀初期のアニメーションから、東欧、アメリカ、ヨーロッパ、日本も含めた、基本的には全部を網羅したものをやろうと。ある程度、原稿は集まってるんですが、肝心のミルクマンさんの原稿を取りこぼしてるんで……。『チェブラーシカ』は写真絵本になっているムーヴィーブックを作りました(定価1,000円+tax)。『チェブラーシカ』の原作は新読書社から出ています。これが原作絵本のチェブラーシカ(……ありゃ、ただのまっ黒い子ザルだ……)、これは表紙を変えて出ます(定価1,000円+tax)。新装版は劇場だともう買えますよ」

---わっかりました。今日は勉強になりました。長々といろんな脱線して(割愛したけど、山本政志監督の『KUMAGUSU熊楠』の話とか、関西の出版・ライター事情とか、カメラマンもするライターやらデザイナーの話とか、ダムタイプとかウィリアム・ギブスンやNTTの話などなど、本当はもっと脱線しまくったのだった……)申し訳ないです。

伊藤:「いえいえ(ニコニコ)」




JULY 2001/プチグラ・パブリッシングにて
TEXT:梶浦秀麿


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