「君とボクの虹色の世界」/ INTERVIEW WITH MIRANDA JULY

ミランダ・ジュライ 来日インタビュー

アメリカのとある街で、アーティストを目指す30歳のタクシードライバー、クリスティーンと彼女を取り巻く様々な人々の触れ合いを描いた、ミランダ・ジュライ主演・脚本・監督の初の長編映画『君とボクの虹色の世界』。昨年のカンヌ国際映画祭やサンダンス映画祭などで数々の賞を受賞し、各メディアでも大絶賛されているこの作品には、見る者を優しく包み込む不思議な空気が漂っている。映像、アート、パフォーマンス、小説と様々なシーンで活躍するマルチ・アーティスト、ミランダ・ジュライの飾らない魅力に迫った。
「君とボクの虹色の世界」review

来日は2度目だそうですね。日本の印象はどうですか?

「素晴らしいわ。日本に来ると、貪欲に何でも見たいという気持ちになるの。今回は、ボーイフレンドと一緒に温泉に行く予定になっているので、すごく楽しみよ。」

では、少しバックグラウンドについてお聞かせ下さい。子供の頃は、どんな遊びが好きでしたか?

「まねごと遊びをしていたわ。2年生の時に劇に出て、プログラムを自分で作ったことをよく覚えている。威張り散らしては友達を振り回す、問題児だったわ(笑)。」

10代の頃はどうでしたか?

「10代前半には自分を見失っていた時期もあった。でも16才で初めて芝居を書いて、パンク・クラブで上演したの。何がやりたいか分かってきたのも、その頃のことよ。それまでは人との関係をうまく築けずにいたのだけれど、そこから自分を見つけ出すことができたの。」

ご両親が出版社を経営しているようですが、どのような家庭なのですか?

「両親はアーティストではないのだけど、知識人ではあるわ。面白い人が周りに沢山いて、家は本で溢れていた。父親は面白いと思ったものは何でも出版してしまう人で常に、何事にでも情熱を持て、と言っていた。でも、私が作品制作に専念する為に大学を中退した時は、さすがに喜んではいなかったけれど。(笑)」

では、あなたの活動にはとても理解があるようですね。

「ええ。若い頃は良くても大人になったら真面目に働け、と言う親がいるけれど、両親は私を理解してサポートしてくれているから、とても救われているわ。」

大学を中退後、ポートランドでアーティスト活動に専念していたようですが、具体的にポートランドには 、どのような利点があるのでしょうか。

「私にとっては本当に良い場所だったわ。誰かが新しいことに挑戦しようとすると、みんな興奮するの。よく映画撮影に使われる土地だけれど、私はあまり関係することはなかったわね。どちらかと言うと、サブカルチャー寄りだったから。今はLAに引っ越してきてしまったけれど、20代を過ごすには最高の場所だと思うわ。」

アーティストとして、どのような人に影響を受けましたか?

「友人でもあるビキニ・キル。彼らのパフォーマンスというよりも、生き方とか勇敢さにとても影響を受けたわ。あとは、アーティストのハレル・フレッチャー。私と一緒に『ラーニング・トゥ・ラブ・ユー・モア』のプロジェクトを一緒にやった人ね。彼にもとても影響を受けているわ。」

では、今回が初の長編となる本作は、アメリカが舞台となっています。家族の崩壊や銃社会などのネガティブなテーマが多い中で、あえてポジティブなテーマを選んだ理由は何でしょう?

「この映画のプロモーションで世界を飛び回るまでは、アメリカ以外の国のことはほとんど知らなかったわ。だから、自分の知識の中で何を表現するかが大切だと思ったの。登場人物については、「今」を反映させたわ。アメリカは白人ばかりではないから、白人だけの映画だとおかしいでしょ。つまり、これらのテーマにリアリティを持たせたのがこの作品なのよ。」

あなたと主人公のクリスティーンは、あらゆる点でとても似ていますよね。あなた自身がクリスティーンを描くにあたって、どのように感じていましたか?

「クリスティーンの原点は、確実に私。違うバージョンの私、という感じね。今までにアート作品として自分を描く機会がなかったので、初めは恥ずかしかったけれど、避けるよりは良いことじゃないかと思い始めたの。また、クリスティーンを“演じる”のも恥ずかしいのではないかと思っていたけれど、実際に映像を見る段階になったら、これが結構楽しいの!自分みたいなコを見ることが(笑)。だから、これは良い作品だと感じたわ。」

この作品には、様々な人々が登場しますが、特に気に入っているのは誰でしょうか?

「特にというのはないけれど、最初に行った小さな女の子のキャスティングがすごく楽しくて、こんな風に全員を選びたいと思ったわ。ロビー役のブランドンは、編集の段階で彼の素晴らしさに気づいたのよ。時間に追われた最終作業で初めて善し悪しが分かってきたの。」

この作品のテーマを一言で述べると、何でしょう?

「大人と子供がどうやって触れ合っていくか、ということかしら。」

では、次に挑戦してみたい新たな分野があるとすれば、何ですか?

「これまで様々な事やってきて、音楽の才能だけはないと確信していたの。でも今はピアノをやってみたいわ。私の甥が赤ちゃん用のピアノを持っているだけれど、私が今そのピアノに夢中で、私って天才!?って思っているぐらいよ(笑)。」

次にまた映画を撮るとしたら、どんなストーリーになりますか?

「もうすでに作り始めてはいるけれど、テーマのひとつは“自意識”かしら。昨年から自分にも関わっているテーマなの。自分で状況を選べない時にどのように対処してゆくか、そんな感じかしら。」

本作のクリスティーンのように、アーティストとして地道に活動する人々が日本にも大勢います。今、大きな成功を収めたあなたから、彼女達にメッセージをお願いします。

「自分にも日々言い聞かせていることと同じになってしまうけど、自分自身であること。自分に正直であること。変な場所に行ったり、変なことをしたりすることを、恐れないこと。それは制作過程の一部でしかないの。そこには必ず、驚きが待っているわ。」

『君とボクの虹色の世界』

監督・脚本・主演:ミランダ・ジュライ
(2005年/アメリカ/90分/配給:ハピネット・ピクチャーズ)

クリスティーンは高齢者タクシーの運転手をしながら、アーティストを夢見る30歳。ある日、離婚したばかりの靴屋の店員リチャードと出会い、恋をする。チャットにはまる14歳と6歳のリチャードの息子達に、花嫁道具をコレクションする隣家の小学生シルヴィー。リチャードの同僚アンドリューは、2人の女子高生ヘザーとレベッカにちょっかいを出している。不器用ながら、人との触れ合いを探し続ける様々な人々。そして、みんながゆっくりと小さな勇気を出してゆく…。(→レビューを読む)

2006年4月8日より、渋谷シネ・アミューズにて公開

【取材後記】

本作の日本公開に先駆けて、監督とのインタビューが行われることが告げられた2月某日。資料を片手に、世界に羽ばたき始めたばかりのミランダ・ジュライのホームページで彼女の現在までの作品をチェックした。その中で最も気になったのが、ハレル・フレッチャーとの作品『ラーニング・トゥ・ラブ・ユー・モア』(あなたをもっと愛するための勉強)だった。ハレルとミランダの2人によって出された少し奇妙な課題(「大人サイズの子供服を作る」「人のそばかすで星座を描く」など)に対し、一般の人々がウェブを通して投稿してゆくこのちょっと変わったプロジェクトに「自分がしたいと思う電話の会話を書く」という課題があった。ざっと数えても100はあるだろう投稿作品を見てみると、家庭ではあまり話せない父親にそばにいるよと言われる娘や、すれ違い始めた恋人から愛していると言われる女の子、死んでしまった母親にもっと話したかったと語る息子など、そのほとんどが誰かの愛情を求める人々の会話ばかりだった。その内容に胸を打たれながらも、このプロジェクトが人々の心の奥にそっと光を当て、作品としてその思い表現させてしまう不思議な力に驚かされた。そしてその後、実際に会ったミランダ・ジュライ本人もまた、同じような不思議な魅力を持った女性だった。自然体の彼女は誰に対しても笑顔を振りまき、気さくに話しかけ、周囲の人々を気遣っていた。本作『君とボクの虹色の世界』は、そんな彼女の優しい性格が映し出されたミランダ・ワールドの象徴であることは間違いなさそうだ。
Interview & Text : Chiemi Isozaki / Photo : UTAMARU
SPECIAL FEATURE : ME AND YOU AND EVERYONE WE KNOW
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