Subject: PINERO
Date: XX,XX,2003
From: NORIO Saito
To: ayako nakamura



実のところあまり期待してなかったんだ。ピニェロの存在も知らなかったし、監督のイチャソも縁がなかった。ついでに白状すると海外の批評を読みすぎた。当然、賛否両論取り混ぜてだけど、ディジタルヴィデオの使い方が不器用だとか、フラッシュバックが訳わからんだとか、やれモノクロ⇔カラーの変換が無意味だとか、けなしている側のこういった言い分が頭に残っていてね。大体オジサンは権威筋の言い分にヨワイからね。

で、どうだったか?一時間半、あっという間の感じで楽しんだよ。観る前の予感と結果がこんなに違ったのも珍しい。

RE:
わたしはビジュアルの印象だけで「観る」って決めた映画。ハズすかな…なんて思いながら、ひょっとしたら…という感じで。率直な感想は「超かっこいい!」。すごくいいライブを体験した時のような高揚感が残りました。

先ず監督・脚本のイチャソの仕事が立派だ。ヤク中、アル中で40年ちょっとの人生の半分を刑務所で過ごしながら詩人、劇作家、俳優として一瞬の花火のような存在だったピニェロの光と闇を実に暖かい目でコンパクトに描いているんだ。芸術的才能と生活態度の間にとてつもないギャップがある例は古今東西いくらでもある。とは言え、映画が僕たちを上手にその不思議な現場に連れて行ってくれるときに価値が生まれる。例えばピニェロがなんとかして死から逃れたいと友人に訴えるシーンに、異様にユーモラスな場面を続けるところなどにイチャソの工夫を感じる。難癖をつけられているフラッシュバック、カラー・ モノクロ転換は、こうなるとまったく気にならなかった。ピニェロの頭の中がそうなっているんだもんな。

RE:
癖のある映像だけど、あの手法だからこそ、ピニェロという人のパーソナリティを描けたんだと思います。ただスタイリッシュなだけじゃなくて、ちゃんと意味がある。

ベンジャミン・ブラットが良かった。相当がんばってこの役を取りに行ったそうだけど、二枚目のブラットが、破滅型性格破綻者のピニェロ役を造りきっている。メークを含む雰囲気作りだけではなく、ピニェロの詩、「ロアー・イーストサイド・ポエム」の朗読には気合が入っていて勉強のあとが認められる。

RE:
ベンジャミン・ブラッドは本当に素敵。本物よりもかっこいいなんて言われているけど、ソフト帽にアディダスのジャージ、みたいなファッションも良かった。真似したくなりました。

冬クソ寒く夏バカ暑く、カネが渦巻いている片方で犯罪の巣食うマンハッタンは矛盾と不思議に満ちでいて説明のつかぬ魅力がある。この街には表と裏があるが、詩に出てくるハウストンストリートから14丁目の東側はやはり裏側の一つだろう。'80年代にはここからそう遠くないウオール・ストリートくんだりから、服装でそれと判る秘書の姐ちゃんたちが真昼間ヤクを仕入れに来ていると新聞で読んだが、今は少しおとなしくなっている。ピニェロは、死んだら自分の灰をこの街に撒いてくれと詠って、この不思議な街そのものとそこに住む人たちへの愛着を表すのだが、街路とか屋上のシーンに街の雰囲気がとてもよく描き出されている。

RE:
サイトウさんがあの街に住んだことがあるからこそわかる部分でしょうね。個人的にはドラッグを必要以上にかっこいいものとして描いていないところが好印象。普通に、ただそこにある。そしてピニェロには必要だった。それだけ、っていう感じがして。

ラテン系で固めたキャストだが、大物リタ・モレノがピニェロの母親役で現れる。'61年の『ウエスト・サイド物語』でプエルトリコ小娘を演じた時、もう30に手が届いていたはずだけど、パンチの利いた踊り、それに、プエルトリコなまりで歌う「America」のLyricsが捻りの利いたアメリカ礼賛で面白かったのを思い出す。この歌詞に「ニューヨリカン」の原点があるんで、受けて立ったリタ・モレノも良いところがある。それにしても美しく年を取ったもんだね、この人は!

RE:
屋上で踊るシーンは「ビューティフル!」の一言。ただただ、感動しました。

今に始まった話じゃないが、とてもじゃないが汚ねえ言葉だらけだぞ。'60年代には映画はおろか、普段の生活で絶対女性が口にしなかった4文字言葉をタリサ・ソトが連発してる。ニュアンスを伝えるのに字幕製作者もさぞかしご苦労されてるんだろうが、あの国の言葉の汚さはどんどん進化(?)するのに日本語は変わりようないんだからこればかりは仕方ない。

UNZIPとしてはほめ過ぎ? …強いて批判しようと思えば思えば、時代背景とか反体制の立場を意識して昔のニュース(レーガン大統領の暗殺未遂事件など)クリッピング数点をを挿入しているのが安易過ぎることなど、いくつか挙げられる。でも、そんなことには目をつむって素直な気持ちで観ると面白いと思うよ、この映画は。

RE:
わたしも気に入るとほめ過ぎる傾向があるのだけど、やっぱり良い映画は「良い」と言いたい。ぜひたくさんの人に“体験”してほしい映画です。

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Text: NORIO Saito and nakamura (UNZIP) // Copyright © 2004 UNZIP.