[ザ・ロイヤル・テネンバウムズ] The Royal Tenenbaums
9月7日(土)より恵比寿ガーデンシネマ、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほかにて全国公開

監督:ウェス・アンダーソン/脚本:ウェス・アンダーソン&オーエン・ウィルソン/衣装デザイン:カレン・パッチ/音楽:マーク・マザーズボー/出演:ジーン・ハックマン、アンジェリカ・ヒューストン、ベン・スティラー、グウィネス・パルトロウ、ルーク・ウィルソン、オーウェン・ウィルソンほか(2001年/アメリカ/109分/配給:ブエナ ビスタ インターナショナル(ジャパン)

→特集:『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』
(コラム“天才ウェス・アンダーソン監督の世界”、“サウンドトラックを聴きながら”)

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有能な弁護士であるロイヤル・テネンバウム(ジーン・ハックマン)と考古学者である妻エセル(アンジェリカ・ヒューストン)には3人の子供がいた。ロイヤルは妻を、家族を、愛していたが、「ほんのわずかな誠実さに欠けていた」ために別居することになった。教育熱心なエセルは子供達に空手やイタリア語、バレエなどを習わせ、彼らの才能を育んだ。3人の子供達…長男のチャスは子供の頃から不動産売買に精通し、10代にして国際金融に並外れた能力を発揮する<天才>だった。長女(養女)のマーゴは少女の頃から戯曲の才にあふれ、10代前半で5万ドルの懸賞金を得た<天才>だった。次男リッチーはテニス・プレイヤーで、全米ジュニア選手権で前人未到のV3を達成し、将来を嘱望されプロデビューを果たした<天才>だった。エセルは「天才一家」という著書を書き、ベストセラーとなった。しかし家長にして<世界で一番自分勝手な男>ロイヤルの誤ちと裏切りによって3人の元天才児達はトラブルだらけの大人に成長、一家は離散状態に。だが「あと6週間の命なんだ。最後ぐらい家族といっしょにいたい。」という父の一言で、22年ぶりに(渋々ながら)家族がひとつ屋根の下に再会する。果たしてテネンバウム家の再生はなるか…?

日本ではビデオリリースのみだったにも関わらずカルト人気となった『天才マックスの世界』(98年)のウェス・アンダーソン監督作品がいよいよ劇場で公開! あのブラッド・ピットが最も注目する若手監督の1人として名前を挙げていたり、マーティン・スコセッシ監督自身に「次のスコセッシ」と言わしめたり…。そんなウェス・アンダーソンの新作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』は期待を裏切らない快作だ。彼独特のトーンとユーモアの中で描かれる、欠陥だらけだけど強烈な個性を持つ愛すべきキャラクターたち。中でも身勝手だけど憎めない主人公、ロイヤルを演じるジーン・ハックマンは最高。前作『エネミー・ライン』でのヒーロー的役柄からは対極に近いダメオヤジっぷりには同一人物であることを疑ってしまう。ウェス・アンダーソン作品にハックマンが出演すること自体が驚きだが、テネンバウム家の隣に住むイーライ役のオーウェン・ウィルソン(ウェス・アンダーソンと共に脚本も手掛ける)と『エネミー・ライン』に出演して知り合い、意気投合したのが本作出演のきっかけと聞く。

この家族の物語は、それぞれの心の傷を悲しくも滑稽に描きながらも現代のニューヨークを舞台にしたおとぎ話の様だ。3人の子供達+孫の徹底して同じものしか着ないファッションも、そう印象付けるのに一役買っている。チャス(ベン・スティラー)親子はどこへ行くにもアディダスの3本ラインのジャージ。マーゴ(グウィネス・パルトロウ)はラコステのボーダーワンピースにフェンディの毛皮、靴はローファーしか履かない。リッチー(ルーク・ウィルソン)は徹底してフィラ。テニスプレイヤーだった彼がフィラを愛用するのは納得がいくものの、他の2人に関してはなぜそこまでこだわるのか謎。同じ格好ばかりしているのは貧乏なためではもちろんなく(むしろ逆だ)、彼らのクローゼットにはルパン三世のクローゼット並みに、同じ洋服がずらりと並んでいるのだ。次男リッチーのフィラの着こなしは見事。スーツにカシミア(多分)のマフラーというスタイルに、フィラのインナーやリストバンドを合わせていて、それがなんともかっこいい。ちなみに本作は『ハリーポッターと賢者の石』と並んで米業界団体コスチューム・デザイナーズ・ギルド賞を受賞している。

音楽もまたすばらしい。マーゴのダウナーぶりにニコ(ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ)の曲はぴったりで、強烈な孤独感を抱えて奇行をくり返す彼女が、ニコの人生に憧れているのかなと思うと、バスルームにひとり閉じこもって隠れてタバコを吸う姿も、なんだか可愛く思えてしまう。

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』の公式サイトは楽しくてダサかっこいいウェス・アンダーソンの世界がよく表現されているので、ぜひ一度見てみることをおすすめする。きっと映画の公開が待ち遠しくなるだろう。

Text:nakamura [UNZIP]

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