『8マイル』が代表する“青春映画”ってなんだろ?

いや、実は今回は『8マイル』にかこつけて(笑)、こっそり雑誌Spoon.4月号の映画特集をケナそうって思ってたのだ(例えば映画『テープ』のあらすじなんて大嘘で、実物よりドラマチックになってる! どう読んでも「観ないで書いてるやんけ」って感じだとか、酷い紹介も多いのだ)。そこの『8マイル』特集の本文は「現代の『ウエストサイドストーリー』」とか言って、不良グループの抗争になぞらえてたりするワケ。んで深夜放送で件の古典的名作映画『ウエスト・サイド物語』(61)をやってたので久々に観直したんだが…‥。うん、確かに歌と踊りは適度に素晴らしい。だけど…‥あれれ、本筋にはちっとも感動しないのだ。第一この特集で言われるほど『8マイル』にそんなに似てないし。

久々に観た『ウエスト・サイド物語』は、まず、人種差別やら先に移民したか後からかやらで、いがみ合ってる二派の若者の抗争を描く冒頭から、酷くヤな感じがした。相手が1人増えたら逃げ、自分側が人数を増やしたら立場が逆転して…‥と「兵隊の数で勝負が決まる」リクツを図式的にエスカレートするバカバカしさ。で、その後の展開もなんだか任侠映画ごっこみたい。片方の組(笑)をやめた主人公が、いがみ合いを止めさせようとして相手方の組長を殺してしまい、その組長の妹と逃げようとしてたら復讐されておしまいってなこれみよがしな悲劇だし、元ネタの『ロミオとジュリエット』より単純素朴な虚しい「憎悪(ヘイト)の連鎖」の寓話なのだ。Spoon.の特集は、『ウエスト・サイド物語』のシャークスVSジェッツの抗争を『8マイル』のラップグループの闘いになぞらえたり、ヒロインのマリアと『8マイル』のアレックスを比較したりするんだけど、全く見当はずれとしか思えない。で、つい反発しちゃいたくなったのだ。ちゃんと観たんか、と見識を疑っちゃう感じ。

でもよく見ると特集のキャッチコピー部分では「ラップ版『ロッキー』とも呼ばれ」とかチラリと書いてあったりして(本文には一切出てこないのに)、妙に腰砕けな気分になってしまった。『ロッキー』と『ウエスト・サイド物語』とが、同じ映画の起源(元ネタ?モデル?)につかわれるという不思議さに、途方に暮れる感じがあったのだ(共通点が「妹萌え」くらいしか思い浮かばんが、エイドリアンはアル中仲間の妹でマリアは敵の妹って違いは大きいような……)。うーむ。ま、いろんな観方があるってことで納得すべきか。別にウェブで見つけた評にも「2000年代の『アメリカン・グラフィティ』あるいは『ウェストサイド物語』といえる作品なのかも知れない」とか書いてあったしなぁ。こっちはどうやらそれぞれの時代を代表するような“青春もの”の金字塔って意味合いらしいのだけど…‥。

そういや今回は、UNZIPから『8マイル』と“青春映画”ってなお題を頂いていたのだ。ふむ。確かに『8マイル』は立派な“青春映画”なのだ。で、青春映画とくれば、やはり『ウェスト・サイド物語』や『アメリカン・グラフィティ』(73)も代表選手だろう。でもなんかニュアンスが違う気がするのだ。もっと古いジェームズ・ディーンの『エデンの東』や『理由なき反抗』(共に55)なんてのはどうか? これらは主役のオーラが少し似ているかもしれない。いや、『アメグラ』も「仲間との遊び」描写の若い気分は凄く似ている。『8マイル』の仲間達との交流シーンの数々――街の中をドライブしてヤジを飛ばし、パトカーから隠れたりナンパしたり廃屋を燃やしたり…‥ってのは、やはり年寄りには懐かしささえある「青春時代の若者特有の愉しみ」の味がする。

そんな風に、少しづつ似ているものを挙げていくなら、例えばジョン・トラボルタの出世作『サタデー・ナイト・フィーバー』(77)あたりからあるダンス・バトルの系譜――『フラッシュダンス』(83)や『フットルース』(84)などなども、同じ話型だと言えそうだ。成功の鍵となる才能が、じゃあ数学(高いIQ)だと『グッド・ウィル・ハンティング』(97)だし、小説(文才)だと『小説家を見つけたら』(00)だし、スラミング(詩の朗読)だと『SLAM』(98)だし…‥と、「才能」をめぐる、ちょい片寄った青春映画のラインナップができる。『8マイル』にあって、『エデンの東』や『理由なき反抗』や『アメグラ』や『ウェストサイド物語』にないのは、こうした才能をめぐるサクセス・ストーリーだ。まず秀でた才能があって、でも物語冒頭ではそれを発揮できず、紆余曲折を経て、ついにみんなに認められて、一人前の大人(自前の才能で食っていける状態)へのステップを一段登る。“青春もの”の中でもこのカテゴリーに属すのが『8マイル』である。

さて、他にも“青春もの”扱いされるものには、『明日に向かって撃て!』とか『イージー・ライダー』(共に69)のような「(古き良き)アウトローもの」もある。マイナーなB級映画では『連鎖犯罪/逃げられない女』(96)なんてのも、邦題は凄まじいが実はこの手のヤサグレ青春ものだったりする。ま、そういう破滅型というかアウトサイダーな系譜もあるから「青春映画」って括りはメンドウだったりする。『8マイル』にもそれに近い要素はあるしね。また数多ある「恋愛映画」ってのも、大きくこのジャンルに入るだろうし(『8マイル』の青姦シーンの青臭いリアルさなんて、絶対不良連中が憧れる“恋愛”シチュエーションのはず)。…‥と、このままだと収拾がつかない方向へいきそうな気がしてきた(ああ邦画の<若大将>シリーズとか『嵐を呼ぶ男』とかってのも青春ものだ。しかし個人的に思い入れもないので省略だ)。

考えがまとまらんので雑誌読みに逃避する。お、スタジオ・ボイス6月号では、なんと『8マイル』が「アクション映画」にカテゴライズされてる! 煽りは「戦うアクション・スター、エミネム!」だって! うひゃー。ガールズ・サーフィン(本気)映画『ブルークラッシュ』や格闘チアリーディング映画『チアーズ』と同じ見開きに並んでるなんて! いやはや、これも「見識」かもしれん。紹介文でやっぱり『ロッキー』に言及してるし、「劇場を出るや、フードかぶって何となくラップし始めたくなる似非ラッパー(私含む)の続出必死! エミネムはブルース・リーやスタローンと、仁義なきヤクザたちと同じアクション・スターになった」(西島大介)ときた。ダハハハハ、鋭い。いやはや「男気」括りってのも正解かもしれんなぁ。ただ若干オチョクッてる感じにみえるのが難か。ありゃ、ヤングマガジン・アッパーズNo10(5/20号)の榎本俊二「映画でにぎりっ屁!!」データ欄にも「出来はラップ版『ロッキー』か!?」とあるゾ。ひょっとしてみんな即『ロッキー』を連想した? ううむ。プレスにもチラシにも勿論『ロッキー』には触れられてないので、その連想自体を面白いと思ってたんだけど、こりゃ言い出しっぺは誰なんだろう? 誰でも思い付くのかなぁ。でもさ…‥。

→次ページへ(2/4)






Copyright © 2002
UNZIP