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THE ADVENTURES OF TINTIN:
THE SECRET OF THE UNICORN

text : ayako nakamura

「タンタンの冒険」がスピルバーグ監督によって映画化された。タイトルは『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』。「なぞのユニコーン号」と「レッドラッカムの宝」をベースに「金のはさみのカニ」のエピソードを加えてつくられた作品だ。

「タンタンの冒険」は50年以上も連載された壮大な物語で、世界中に多くのファンを持つ。プロデューサーのピーター・ジャクソンは幼い頃から「タンタンの冒険」シリーズの愛読者で、手に入るタンタンの本を片っ端から読みあさって育ったという。スピルバーグ監督もまた、映画化権を獲得してから作品化するまでに30年もかかったというから思い入れの深さは相当だろう。そんな二人が「タンタンの冒険」の映画化に関わったおかげで、スピルバーグ版「タンタン」はタンタンファンの期待を裏切らないどころか、タンタンの世界を拡げてくれる作品となった。

ちょうど、映画の公開に合わせて「ユリイカ」の2011年12月号で「タンタンの冒険」が特集されている。この特集は「アンパンマン」で有名な、やなせたかしさんのエッセイではじまるのだが、彼もまた熱心なタンタンファンだそうだ。それを知ってみると、アンパンマンと一緒にいる犬のチーズは、主人公のタンタンといつも一緒にいるスノーウィに重なるではないか。アンパンマンに夢中な日本の子どもたちが間接的に「タンタンの冒険」に影響を受けているのかもしれないと思うと、とても面白い。

わたし自身も子どもの頃からのタンタンファンで、この原稿を書いているデスクの下にもスノーウィの顔がプリントされたボックスが並んでいる。同年代の人の多くがそうだったように、タンタンの出会いは、'80年代にタンタンがお洒落キャラクターとして流行した頃だった。

'80年代、タンタンは
僕らのファッションアイコンだった

オリーブ(マガジンハウス刊)が独自の世界観をもっていて、いちばん元気だった'80年代。当時のオリーブは「リセエンヌ」を憧れのキーワードに、リセエンヌ(フランスの公立学校リセの女生徒)たちのファッションやライフスタイルを紹介していた。ベルギー生まれでフランスでも人気のあったタンタンは、リセエンヌのお気に入りとして紹介され、そのお洒落さに、オリーブ少女たちは、たちまち夢中になったものだ。

そのあとすぐ、オリーブで仲世朝子さんの『のんちゃんジャーナル』というイラストエッセイが連載されるのだが、仲世さん自身が、のんちゃんはタンタンの女の子版みたいなキャラクターとして生み出したキャラクターだと語っている。のんちゃんはタンタンのような冒険はしないけれど、古い映画の中のお洒落を紹介してくれたり、好奇心いっぱいの元気な女の子で、連載をまとめた本が出版されるほどの人気だった。

一方で、オリーブのボーイフレンド雑誌、ポパイではタンタンのファッションとヘアスタイルが注目されていた。タンタンは、物語の中でもしょっちゅう着替えるうえ、民族衣装も軽く着こなすお洒落さんなのだが、普段はだいたい、きれいなヨーロッパらしい微妙な色あいのセーターから白いエリを出し、ニッカーボッカーズをはいてステンカラーのコートを羽織っている。

タンタンを真似た男の子たちは、前髪だけを残してくるんとさせた短髪(「タンタンヘア」と呼ばれていた)に、ニッカーボッカーズの代わりの短め丈のパンツと、オデコ靴と呼んでいたつま先がポコっと膨らんだ革靴を履いていて、それがとても可愛らしく、男の子たちの特権に見えたものだ。思えばこの頃が、フレンチカジュアルの始まりだったような気がする。

「タンタンヘア」はポパイのヘアスタイル特集にも登場し、当時のトレンディドラマで人気のあった、三上博史、柳葉敏郎、BARBEE BOYSのKONTAなどはみんなタンタンヘアだったほど大流行したし(柳葉敏郎はいまもほとんど変わっていないが)、シブガキ隊からモックンがファッションリーダーとして頭角を現したときも、やっぱり髪型はタンタンヘアだった。80年代のタンタンは、まさにファッションアイコンだったのだ。


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『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』
THE ADVENTURES OF TINTIN:THE SECRET OF THE UNICORN

2011年12月1日(木)より、TOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー

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