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○月○日
イーサン・ホーク主演の『ハムレット』を見る。ウィリアム・シェイクスピア作の舞台 劇「ハムレット」は、今回でいったい何度目の映画化になるのだろうか? ざっと思い浮かぶだけでも、ローレンス・オリヴィエ、オーソン・ウェルズ、トニー・リチャードソン、フランコ・ゼフィレッリ、ケネス・ブラナーの監督たち。正確には分からないが、おそらくは数十回目にはなるのはず。『ハムレット』に限らず、シェイクスピア劇を見る場合、キャスティングを含めて、どう作っているかが楽しみになる。そしてそれが出来栄えの決め手になるケースが少なくない。

そこで今回だが、アイディアがとてもユニーク。時代を西暦2000年に設定し、舞台をニューヨークに置いている。イーサン・ホーク演じる12世紀デンマークの皇子ハムレットのキャラクターは、巨大マルチ・メディア企業デンマーク・コーポレーション社長の御曹司。映画監督志望の彼は、このところ活況を呈しているイギリス映画界に留学中の身ということになっている。そして社長である父の急死によって、留学先からニューヨークに戻ったところから物語がスタートする。

面白いのは情報の取り違えが招くこの復讐の悲劇を、今世紀を象徴する都市を舞台にして、エピソードのポイントを今世紀を象徴する情報伝達ツールを使って描いていること。それはローゼンクランツとギルデンスターンが演じる芝居を映画に変え、さらに王が見る場面 は試写を見るという趣向であり、ハムレットの暗殺命令は機内でノートパソコンを使ったハムレット自身が、フロッピーを開いて知るといった具合。携帯電話やデジカメも、もちろん登場する。ニューヨークという都市の特徴も生かされている。ただ、ひとつ発見(というほどでもないが)したこともある。それはどの時代にもフィットするシェイクスピアだが、「ハムレット」のオフィーリアのキャラだけは無理があるということ。だって父や兄に「ハムレットに会うのをやめなさい」と言われ、相思相愛の彼女は神経衰弱になった揚げ句に投身自殺をするなんて。こんな従順な女の子が今どきいるとは思えないから。でもこのアイディアのユニークさは絶対に買い!



○月○日
顔はどんな言葉もおよばないほどに、その人を物語る。頑なにそう信じている私は、すべからく人を顔で判断する。神秘の国ブータンから初めて映画がやってきた!! という惹句が入った『ザ・カップ/夢のアンテナ』の試写 状を受け取るや、サッカーボールを抱えて屈託のない笑顔で走る少年僧たちの絵柄に、「ふむふむ、お坊さんがサッカーをやるのか。なるほどなるほど、今年はオリンピックの年だものね」。熱狂的なサッカー・ファンではないが、初回の試写 にかけつけたのであった。

結論を言えば、実にいいのである。何がいいかと言えば、お坊さんがサッカーをやる訳ではないけれど、みんな本当にいい顔をしているのだ。

物語の舞台になるのはチベットからの亡命僧が修業しているインドのヒマラヤ山麓にふる仏教寺院。98年にフランスで開催されたサッカーのワールド・カップの決勝戦を見たい一心で、少年僧がテレビを借りる計画を練り、連携プレーで実行に移す。「テレビが見たい」という、今の日本からすればなんとも素朴な思いでみんなの気持ちがひとつになれるとは……。

登場人物のほとんどは僧衣を着た僧侶や修業僧で、演じているのも実際の僧侶。監督のケンツェ・ノルブからして僧侶なのである。なんでも19世紀の聖人ジャムヤン・ケンツェ・ワンポの生まれ変わりとされている高僧だとか。聞けば、ノルプ氏はベルナルド・ベルトルッチ監督の『リトル・ブッダ』(93)のアドバイザーを務めたことで、映画を撮ってみたいと思うようになったとか。そして撮ってしまったわけだが、薄っぺらな話に過剰なまでの視覚処理で見せるハリウッド映画に食傷ぎみな私は、すっかりいい気持ちに。異文化ムービーとでもいったらいいのだろうか。間延びしたようにゆったりした時間の流れの中で展開するテレビ観戦作戦に、ささくれだったハートのギザギザがとれてしまった。エステに行くよりはいいかもしれない。



○月○日
[第13回東京国際映画祭にて]

1)来日ゲスト「ガールファイト」(2001公開予定)主演女優ミシェル・ロドリゲスさん(アメリカ)
2)カネボウ女性映画週間パーティーにて 女優の香川京子さん(右)横山通 乃さん(左)
3)第13回東京国際映画祭の審査委員長フォルカー・シュレンドルフ(映画監督)
4)来日ゲスト「山の郵便配達」(来春公開)脚本家ス・ウさん(中国)

第13回東京国際映画祭・カネボウ国際女性映画週間で上映される中国映画『山の郵便配達』を見る。中国南部の、歩く以外に交通 手段のない山岳地帯に何十年も郵便を配達し、引退する父。父のあとを継いだ息子。映画は初仕事に出る息子の2泊3日の配達の旅に愛犬と共に同道する父を描く。

ストーリーはシンプルなのだけど、これがなかなかに味わい深い物語なのである。山峡に暮らす人々に郵便を配達することで、おのずとその人たちの人生に寄り添い、暮らしを共有してきた父親は、妻子には夫として父としての気持ちを口にしたことはない。けれど冷たいというのではなく、考えてみれば日本でもある世代から上の男性は、およそ似たようなもの。道々父に家々の事情から配達のコツを教わり、母との出会い等を聞く息子。一方、近道をするために息子に背負われて川を渡る父の頬をつたう感慨の涙。緑がしたたる悠久の自然の中で淡々と語られる家族の情愛が清々しい。多くを語らずとも心と心が通 いあうのが親子であって、友だちみたいな父と息子 (娘)なんて、アレはテレビのコマーシャルの中のもの。チャン・イーモウ監督の『初恋のきた道』を少し前に見たけれど、最近はアジア映画がやたらとしっくり馴染む。



俳優やクルーのことを詳しく知りたい方は、Miss Marpleの「Movie data base」をご覧ください。


Text:Nao Kisaragi
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