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○月○日
ウディ・アレン監督『ギター弾きの恋』でジョーン・ペン演じる主人公、エメット・レイが憧れていたのは、30年代に活躍した実在のギタリストのジャンゴ・ラインハルト。世界で1番のギタリストはラインハルトで、2番目が自分という設定のもと、レイのギタリスト人生がストーリーになっていた。ちなみにレイはアレンが創作した人物である。

それからスウェーデン映画『ゴシップ』はかの国が生んだ大女優、グレタ・ガルボがスウェーデン女王を演じたハリウッド映画『クリスチナ女王』(33)をリメイクするという話。で、ガルボが演じた女王役のオーディションに応募して結果を待つ女優たちのストーリーである。そういえば、映画はフィクションだけれど、『バガー・ヴァンスの伝説』にも実在したプロゴルファー、ボビー・ジョーンズとウォルター・ヘイゲンが登場した。『マルコヴィッチの穴』はジョン・マルコヴィッチの脳に入り、15分間だけマルコヴィッチになれるというものだった。

なんだかこのところ、実在した人物をストーリーの題材にして、登場するとは限らないけれど、主人公に絡ませた秀作映画が続くなぁ。

そのジョン・マルコヴィッチがF・W・ムルナウ監督に扮した『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(8月公開)を見ながら、こんなことを思った。この映画は、1920年代のドイツ表現主義を代表するサイレント映画にして、吸血鬼映画の原点でもある『吸血鬼ノスフェラトゥ』(22)で、オルロック伯爵を演じた俳優マックス・シュレックが本物の吸血鬼だったら? というアイディアが出発点。ムルナウ監督(1889-1931)による『吸血鬼ノスフェラトゥ』の撮影記というか、顛末記なのだ。本物の吸血鬼、つまりマックス・シュレックを演じるのはウィレム・デフォー(この演技でゴールデングローブ賞とアカデミー賞の助演男優賞候補になった)。

1921年。F・W・ムルナウは、撮影が無事に終了した暁には報酬として主演女優の血を与える約束をして、シュレックで『吸血鬼ノスフェラトゥ』の撮影に入った。けれど人間の新鮮な血に飢えていたシュレックは、禁を破ってまずカメラマンを犠牲に。主演女優はもちろん、共演者や撮影クルーも、シュレックが本物の吸血鬼だとはまったく知らされていない。新しいカメラマンを探すムルナウ。主演女優に会わせるよう要求するシュレック。モルヒネに浸る主演女優。不安と恐怖の中で撮影がすすめられ、遂にクルーにシュレックの正体が明かされて、ラストシーンの撮影が始まる……。

前述した作品も含めて、この種の映画の決め手になるのはアイディア。吸血鬼映画はサイレント時代をから今日まで本当にたくさん作られているが、この『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』は、吸血鬼俳優を本物の吸血鬼にしたユニークであり、かつ面白い。亡きクラウス・キンスキー主演、ヘルツォーク監督によるムルナウのリメイク版『ノスフェラトゥ』(78)と見比べるのも一興かと思う。蛇足ながらウィレム・デフォーは無名時代にヴァンパイア映画『ハンガー』(83)に出ているし、プロデューサー役のウド・キアーは『処女の生血』(74)で吸血鬼を演じている。


○月○日
話題の映画『ムーラン・ルージュ』(11月下旬より日比谷映画他で公開予定)を見る。派手で賑やかしい映画が大好きな私は、今年のカンヌ映画祭のオープニングを飾ったこのミュージカル映画をどんなに楽しみにしていたことか……。なにしろムーランルージュといえば、赤い風車のネオンがシンボルの、
20世紀初頭のパリのナイトクラブ。画家のロートレックとカンカンでお馴染みの、おそらくは世界でいちばん有名な社交場である。加えてこのところ目覚ましく女優っぷりが良くなったニコール・キッドマンが主演している。とはいえ期待が大きいとがっかりするケースが多いの世の常(何度期待を裏切られたことか)。ここはひとつ押さえて押さえてと、自分の胸に言い聞かせ、平成を装いながら始まるのを待ったのでした。

ユアン・マクレガーが演じる作家クリスチャンの回想でスタートしたミュージカルは快調そのもの。キッドマンが演じるムーランルージュのダンサーにして高級娼婦のサティンとクリスチャンの恋を軸に、当時のナイトクラブ・シーンを音楽とダンスでたっぷり見せる。モチーフはプッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」だから、サティンは貧乏にクリスティンを愛してはいるけれど、金持ちの伯爵にも気持ちがなびく。というのがストーリー。

こうした、いわばナイトクラブのバックステージものなのだが、映画はまるで色彩と光の洪水なのだ。そしてハリウッド映画の黄金期に人気を博したレビュー映画を思わせるアクロバティックな演出も随所にある。キッドマンのサティンもなかなかに妖しくて、その魅力が堂に入っている。これぞ映画の醍醐味だ。公開までにはまだ少し間があるけれど、一年に一本しか映画を見ない人は、絶対これがオススメ。私はこの映画の楽しさにハマってしまって「他はもういいや」の心境。目を覚まさなければマズイけれど、ずっと浸っ ていたいのが正直な気持ちです。



俳優やクルーのことを詳しく知りたい方は、Miss Marpleの「Movie data base」をご覧ください。


Text:Nao Kisaragi
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