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○月○日
職業柄、友人や知人からしばしばオススメ映画を訊かれる。とりわけ今の時期は「お正月映画は何が面白い?」となる。一概にオススメと言われても、その人の好みがあるわけだし、気配りの私としてはしばし応えに窮してしまうのだか、ここで私の[オススメお正月映画]を書いてしまおう。個々人の好みは別にして、お金を払って映画館に行っても損はさせません、という基準で2作品をオススメします。

まずは『初恋のきた道』(12月2日より、Bunkamuraル・シネマで公開中)。これは88年の監督デビュー作『紅いコーリャン』からから99年の『あの子を探して』まで、"賞獲り男"の異名をもつチャン・イーモウ監督の最新作。ストーリーをひと口に言えば、中国北部の村の文字を知らない少女の、40年間にわたるラブストーリー。教室の外で漏れ聴いた新任の青年教師の朗読する声に惚れた彼女が、料理で愛する気持ちを相手に伝え、一途な想いが通じて結婚し、そして夫を看取るまでの40年間の話。少女を演じたチャン・ツィイーの美しいこと!? 清々しいこと!?コン・リーで実証済みだが、イーモウ監督の女優探しのうまさに、ひれ伏したい気持ち。ツィイーを見ているだけでも充分だ。

それにつけても声に魅せられて40年間も一途に愛し続けることができたピュアな心は感動もの。加えて、わずか1時間29分で40年間の愛を描ききるなんて、この点でも誉めものである。なにせ昨今の映画ときたら中身が空疎なくせに、やたら長いものが多い。「私にハサミを!」と、叫びたくなることがある(いつの間にか小言オバと化している)。

もうひとつは『13デイズ/サーティーン・デイズ』(12月16日より、丸の内ピカデリー1他、全国松竹系で公開)。これは1962年に起ったキューバ危機におけるアメリカ大統領、つまりジョン・F・ケネディと政府、そして軍の13日間を描いたサスペンス。だが、なにせ62年のこと。携帯電話等の通信機器は言うにおよばず、ましてや軍関連のテクノロジーも、今とは比較にならない。その代わり、いや、だからこそ、この映画には核戦争を回避しようとする人間たちの、ダイナミックなドラマがあり、よっていやがうえにもサスペンスが盛り上がる。なんでもかんでもテクノロジーに頼り、またそれをウリにする最近の映画の傾向にすっかり食傷ぎみになっている身には、久々に味わう面白さだった。ただしケネディ大統領が少々立派過ぎる。



○月○日

[ファストフード ファストウーマン記者会見にて]
1)突然のヤマンバ・ギャル登場に驚きながらも嬉しそうな小顔のアンナ・トムソン。(中央)
2)トムソンの次回作で共演が決定している実の息子。カメラを向けられてポーズを取った。
3)
PCの頼もしきDr.平田明仁さん。

『ファストフード ファストウーマン』(新春、シネマライズ渋谷で公開)でヒロインのベラを演じたアンナ・トムソンの記者会見に行った。この名前を聞いてすぐに顔が思い浮かぶ人はそう多くはないと思うが、クリント・イーストウッドが監督した『許されざる者』の中で、顔を切られた娼婦と言えばピンとくる人は多いだろう。

さてピンクのドレスで現われたトムソンは、超スレンダーなボディ。目の前のトムソンは逞しくてちょっぴりエキセントリックな面もあるウェイトレスのベラとは違って、まるで白磁でできた人形のようだ。当人曰く、体形がスレンダーなのは「子供の世話で食事をする時間がないだけ」。ちなみに彼女には亡夫との間に生まれた8歳半になる双子の男の子がいて、一緒に来日している。

初来日した、そのトムソンが日本の街(渋谷)の光景で興味を惹かれたのは、驚くなかれ。いわゆるヤマンバ・ギャル!? 初めて見るメイクとコスチュームに、相当のカルチャー・ショックを受けたようだ。それでは実物を至近距離でお目にかけましょう、という映画会社のはからいで、本物のヤマンバ・ギャル二人が花束を持って登場したのでした。ちなみに二人共、顔の大きさがトムソンの2倍はありました。映画の宣伝マンはアイディアは凝らして様々な仕掛けをするのですが、ヤマンバ・ギャル生出演にはビックリ!?

トムソンが「私とはまったく違う」と言う『ファストフード ファストウーマン』のベラは35歳で、ニューヨークでウェイトレスをしている。妻子のいる舞台演出家と、いわゆる不倫の関係を10年以上も続けている。結婚願望もあり、子供も欲しいベラは、多忙を口実にして離婚やバカンスに逃げ腰の恋人に倦怠ぎみ。映画はそんな彼女に、ちょっとした偶然から、まるで宝くじの1等賞金を当てたような幸運が舞い込むまでを描く、ちょっぴりスパイスを効かせたロマンチック・コメディなのだ。

監督のアモス・コレックとは、これで3度目のコラボレーションになる(前2作は日本未公開)。それに次回作も一緒だそうで、4作品もというケースは珍しい部類に入る。

「関係となると彼には素晴しい奥さんがいるし、私は愛人ではないし、親子ではないし、どのカテゴリーにも入りません。監督とはたぶん人生感が似ていると思う。他人にはおかしく思えるかもしれませんが、私は7年前に亡くなった夫を未だに愛しています」

「その次回作では(双子の)一人と実の親子の役で共演します」とのこと。部屋で待っていられなかったらしく? 会見中に「マミー」と現われた双子クン。見るからにヤンチャそう。ともあれ、その次回作にはヤマンバ・ギャルのメイクとコスチュームを絶対に取り入れると言っていたトムソンでした。



○月○日
悪夢は静かに始まった。ついにというか、やはりというか、私のPCにウィルスに感染したメールが来てしまった!? それを知った時は一瞬、心臓が冷たくなった。そしてその後にパニックに襲われ、もう何をどうしていいのやら。さらにその後、気を取り直し、被害を最小限に食い止めるべく、連絡を取るべき何ヶ所かに(電話で)連絡して処置をこうじようとしたが、肝心のPCの復旧はあいにくその日のうちには不可能と判明。こうなったら、もうじたばたしてもどうにもならない。いつもお世話になっている代理店の担当者が来てくれるまでは、覚悟を決めて、細切れにしか読む時間が取れなかったジェフリー・ディーヴァーを読むぞッ! ウィルス・パニックの中で、ミステリーを読むのも悪くない(トホホ……)。

初めて読んだJ・ディーヴァーは「ボーンコレクター」だった。"読んでから見るか、見てから読むか"とは昔に流行ったキャッチコピーだが、原則的には読んでから見ることにしている。文字と映像は表現手段が違うことは言うに及ばず、原作をどういう風に映像に置き換えているかを知るのは脚本家のセンスや、あるいは製作の意図を捉えることであり、ひいては監督の演出の意味を感じ取る悦びでもある。そんなわけで、首をながくして待っていた映画『ボーンコレクター』だった。が、思いだすのも情けないくらいに、映画にはがっかり。最近では、いちばん原作と映画のギャップが大きい。嗚呼、原作と映画の悩ましき関係。でも「ボーンコレクター」を皮切りに、ジェフリー・ディーヴァーにはハマッタ。既刊・新刊の文庫本から、最新刊のハードカバーまで、読破を目指してまっしぐらなのです。



俳優やクルーのことを詳しく知りたい方は、Miss Marpleの「Movie data base」をご覧ください。


Text:Nao Kisaragi
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