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○月○日
名作のリメイク、あるいはヒット作の続編化(シリーズ化)は世界の映画界の常識。とはいえ、ことリメイクに関してはオリジナルを越えるもの、もしくは比肩するものにはまずお目にかかれないと諦めている。ハッキリ白状すれば、諦めつつ見た結果 ガッカリさせられるケースがほとんどである。対してシリーズ作品となるとそこまで諦める必要はなさそうである。というよりは『ダーティハリー』『007』、そして日本でいえば『男はつらいよ』といった、これらシリーズの代表的な作品はハリー・キャラハンにジェームズ・ボンドに車寅次郎といった主人公は多くのファンを持っている。

さて『ハンニバル』(4月7日より丸の内ルーブルにて公開中)は御存知、91年に大ヒットした『羊たちの沈黙』の続編。主人公のハンニバル・レクターは、さしずめ映画史上最も再登場を待望された猟奇殺人鬼といえそうだ。

ただしキャラクターは前作の不気味さから大変貌。ファッションから食事、趣味にいたるまでのすべてが超一流好みの優雅な男性に変っている。演じるアンソニー・ホプキンスもこの方こそがピッタリくる。物語の舞台が半分はイタリアのフィレンツェに移ったことも、前作とはまるでテイストの違ったサイコ・スリラーにしている。前作の監督ジョナサン・デミが不気味な挑発者だとすれば、何あろう、今回の監督リドリー・スコットの持ち味は懲りに凝った映像にある。その持ち味とホプキンスの雰囲気が絶妙にマッチして、まるでオペラを見ているような(実際この映画のために創作されたオリジナルのオペラが上演される場面 がある)、豪華なエピソードと贅沢な映像で猟奇殺人を見せる。好みで言えば、『羊たちの沈黙』よりは『ハンニバル』。不気味さから優雅さへと変化したハンニバル・レクターだが、もし今後もさらに続編が作られるとすれば、そしてアンソニー・ホプキンスがハンニバルを演じ続けるとして(私は熱望している)、ハンニバルがどう変っていくのかが楽しみで仕方がない。


○月○日
こんな名言を吐いた人がいた。[自然は芸術を模倣する]、あるいは逆だったかもしれない。けれど映画に描かれていることと、実際の出来事が一致した時には少なからず驚いてしまう。もちろんこれは映画の方が先の場合に限られるのだが、最近でいえば『ユリイカ』と、昨年のゴールデンウィークに起った少年によるバス・ジャック事件。おまけに劇中のバス会社と実際ジャックされたバス会社まで同じであった!?

昨今は狂牛病に加えて口蹄疫という家畜の伝染病が喧伝され始めた。実はこの伝染病のことが日本で問題視される少し前に見た、『ハロー、アゲイン』(5月上旬よりシネマ・カリテにて公開)というイギリス映画に登場していた。大好きだった『フル・モンティ』(97)の脚本家サイモン・ボーフォイの監督作品という興味はあったものの、その時は口蹄疫と言われても何のことかさっぱり解らない。もっとも家畜の病気がテーマでもないので、大量に処分されていく家畜の映像を見ながら、「狂牛病に罹った牛もこんな風に葬られているのだろうなあ」などと思いながら主人公一家と村の人々を見ていた。口蹄疫なる文字を目にしたのは後日の新聞。ん!? 新たな伝染病!? それからはこの伝染病関連の記事が、主にヨーロッパ発でかなり頻繁に取り上げられるようになった。人間には感染しないとかで、この点は安心なんだけれど、輸入食肉は大丈夫だろうか……。ま、こちらの方はその分野の人に適切な対応をお任せすることにして、思えばこれまで映画から知り得た事柄はすこぶる多い。ごく最近も『キャスト・アウェイ』からビデオテープの強度が凄いことを知った次第。てな具合におそらくはこれからもそうであろう。だから映画がやめられない。



○月○日
ものの本によると、天才庭師のことをGreenfingersと言うのだそうである。私は[緑の指]は持っていないけれど、ベランダのガーデニングはそこそこうまくいき、今年の春も何種類かの植物が花を咲かせている。さてさて本物のGreenfingersの映画、その名もズバリ『グリーンフィンガーズ』(4月よりシャンテシネにて公開)を見た。

この映画そもそもの発端は1998年7月16日付けのニューヨークタイムズの記事「イギリスでベルフラワーを育てる自由」。ガーデニングについてのこの記事を偶然に読んだプロデューサーが映画化を思い立ったのだとか。ガーデニングの盛んなイギリスならではの話で、囚人たちが庭造りに目覚め、ついには囚人庭師チームとしてハンプトンコート・パレス・フラワーショーに出品するというもの。そうはいっても殺人者と花とは、いかにもちぐはぐな取りあわせ。けれど映画が始まってみればこのちぐはぐさが、実は微笑ましいエピソードになっている。たとえば老囚人がクリスマス・プレゼントに[においスミレ]の種を贈る。貰った囚人がそれを蒔くというのも健気ではありませんか! 刑務所の庭で春に可憐な花を咲かせているといった調子。植物を育て、花を愛でる武骨な男たち……。

きょうび[いやし]だ[なごみ]だと、音楽やエステを中心に心の有り様に相当のスポットが当たっているが、植物を育てることにもその効果 があるみたい。こんなにもチャーミングな映画を見た私は、せいぜいベランダのプランターたちの世話をまめにいたしましょう。



俳優やクルーのことを詳しく知りたい方は、Miss Marpleの「Movie data base」をご覧ください。


Text:Nao Kisaragi
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